帝人君に用事が出来たため、池袋にあるマンションを尋ねる。電話で済ませられるような些細なことだったけど、会えるなら、と足を運んだ。最初は深い意味なんて無かったはずなのに、足が進むにつれて心臓がドキドキと高鳴っていくのはどうしてなのだろうか。
インターホンを鳴らしたら、帝人君の顔がヒョコッと出てきて、俺の顔を見た瞬間緩んだ。歳の割に可愛いと感じてしまう。俺も片手を上げてニコリと微笑んでみた。帝人君に部屋まで案内され、話を済ませる。本当に早く用事とやらは終わってしまった。


「…………だよ。まぁ、俺が言えるのはここまでかな」

「そうだったんだ……ありがとうございました」

「いえいえ、お役に立てたならよかった。俺の仕事だからね、一応」


安心したような笑顔を見せる帝人君を見て、俺も少し安心した。やっぱり彼は笑顔が似合うと胸中で思い、そのまま雑談をした。それこそ、どうでもいいような会話ばかり。でも新鮮で、正直楽しかった。俺にはこういう体験が少ない。だからかな、なんかくすぐったいのは。寂しい奴、なんて言うなよ。俺は一人が好きなの。うんそうだ絶対そうだ、なんて頷いていたら、不意にちょいちょいと手招きをされた。向かい側に座っていた俺は、何も考えずに帝人君の側に寄る。


「臨也さん、こっちおいで」

「………なにかな?」

「よっ、こいしょ」

「わ、みか、みかどく……」


どうしたわけか、気が付いたら彼の腕の中でギュッとされていた。あまりに急な展開に、俺からは疑問符が浮かぶ。帝人君の匂いふわりと漂っていて、クラクラした。ほっぺたが当たってるよ、ちょ、ちょちょちょ、待ってよ帝人君待って。固まってしまった俺の口はパクパクと動くだけで、言葉がなかなか出てこない。鼻先までもが触れるくらい互いの顔が近くて、顔の中心に熱が少しずつ集中していくのがわかった。目のやり場に困って、つい視線を斜め下にずらす。
帝人君の片手は腰に巻かれたまま、もう一方の手では頭を撫でられた。こんな体験は本当に初めて、だ。彼の唇が頬や額に触れ、優しい吐息がかかる。優しすぎてくすぐったくて、体の奥がムズムズする。それに、なんかこう、頭がボーっとして何も考えられない。


「ああもう、臨也さん可愛いです好きです大好きです一生離しません」

「み、みみみ帝人、くんってば」

「動揺している臨也さんなんて久しぶりに見ました。確か……」

「わー!言うなぁああ!」


帝人君の口を慌てて押さえるけど、目が笑ったままだから彼が何を言いたいのかすぐわかった。あまりに恥ずかしすぎて顔が真っ赤に染まる。力が抜けていた手はいとも簡単に振り払われてしまい、行き場を失って空を泳いでいたら彼の指が絡まってきた。ああ、恥ずかしい。自分よりも手が大きく見えるのは気のせいなのだろうか。むむ、と手の平を開いたり閉じたりしてみるが、俗に言うカップル繋ぎをしている手では測定不能だった。
帝人君はというと、にへらと笑いながら「どうせ口を塞ぐのならこうやってください」と言って唇を重ねてきた。互いの舌がいやらしく絡み、押し倒された背中が時折軋む。ああそうか、と酸欠スレスレの俺は思う。先程までの俺は、ちょっとだけこうなることを期待していたのではないか、と。





好きです、大好きです



―――
30000打フリリク企画!
ぐずぐずに甘やかされる臨也さんとのリクエストを頂いたので、大胆な帝人君を書かせて頂きました!臨也がぐずぐずに甘やかされているように見えたら幸いです。難しい……!
企画に参加してくださってありがとうございました!



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