携帯電話が、僕と彼を繋ぐ。たったワンコールで出てくれた愛しい人。受話器越しに聞こえる声は、心地良く僕の内に響いた。側に居るわけでもないのに、こんなに近くで彼を感じられることが不思議だ。きっと僕の顔は緩んでいるんだろうなあ、なんて。ふと街にそびえ立つ建物のガラスに映った自分をチラッと見たら、ヘラッヘラのゆるゆるな自分の笑顔がこちらを向いていた。


「……臨也さん、これからあなたの家にお邪魔しても大丈夫ですか?」

「いっ、今から?……あー、ちょっと待ってね……」

「何か都合が悪いことでも、」

「あー、違う違う!そんなやましいことは何も……ハッ」

「やましいこと……ふうん、じゃあこれからチャイムを押します」

「へ!?じゃあ君は今……」

「今、あなたの家の前に着きました」

「帝人くんって……メリーさん?」


受話器越しとドア越しから、同じ人の声が聞こえてくる。チャイムを押す前にドアが開かれ、人懐っこい笑顔を浮かべている臨也さんが手招きをした。この人、こんな顔も出来るんだ。会う度に発見があるから、面白い。
いやね、まさか帝人君がこんな近くに居るなんて思わなかったからビックリだよ。しかもメリーさんのくだり、あれは正直ちょっと怖かった。俺さ……あー、アレだから。お化けとかそういう類のものってちょっとアレなんだよね。本当にちょっとだけどね。おいおい帝人君、笑わないでくれよ。
臨也さんがペラペラと口を動かす。よく喋るよく喋る。


「……臨、」

「だからホラ……夜に来てもらうのは全っ然いいんだけどさ、チャイム鳴ったのに覗き穴見たら誰もいませんでしたーとか、ドアを開けたらいませんでしたーとか。よくホラー映画とかであるじゃん?そういうのがちょっとアレなんだよね。あ、決して怖いとかそういうのじゃないから」

「……臨、」

「いやあ、帝人君で本当良かったよ。あと電話してて良かったとも思うね。や、その……べ、別に帝人君の声で安心したりとかなんて……し、してないから!」

「……臨也さん!いい加減喋らしてください」

「え、ああ、ごめん!」


臨也さんは怖いときや何かごまかしたいときに、ひたすら喋るようになる。沈黙が訪れたら何か起きてしまうとでも思っているのだろうか。可愛いなあ、この人。
いろいろツッコませてもらいたい。とりあえず、アレってなんだアレって。上手くごまかせているつもりなのか。それに僕と電話してて良かった、って言っておいて真逆のことを言ったり。もし正臣がここに居たら、多分「これがツンデレというものさ」と言っていることだろう。ツンデレ、か。漫画やアニメでしか見たことが無いのに、この人は……。


「臨也さん……何か隠してますね」

「な、なんの、ことかな?」

「さっき言ったじゃないですか。やましいこと、って」

「や、ややややましいことなんて!」


明らかにうろたえているから、あと一押しだ。ちょっとだけ、隠し事をされていたことが悔しかったのかもしれない。臨也さんを壁に押し付け、唇をゆるりと撫でると、渇いた唇はカサカサで。僕の舌が唇を舐め上げたら、体がピクンと小さく動いた。僕より高い位置にある頭をグイと引き寄せ、舌を絡めつつ酸素を吸う隙を与えないでいると、僕の胸元を弱々しく叩く彼の手。教えて、くれるのかな。


「……っはぁ、ホント………君ってばやることが急だよね」

「あなたほどではありません」

「わーかった、言う、言うよ」


おいで、と招かれた先には――暗くてよく見えない。目を凝らしても、カーテンが締め切った真っ暗な部屋に溶け込んでいて見えないのだ。ん?と疑問符を浮かべて臨也さんを見ると、彼の唇はいつものようにニィと弧を描いていた。いきなりパチンと付けられた電気の眩しさで、しばらく目が使い物にならなかった。ようやく慣れてきた頃、僕の目に映ったのはただの望遠鏡だった。


「なんですか、これ」

「ああ、これで人間かんさ……冗談だよそんな顔しないで。星を、見ていたんだ。あの折原臨也が、って笑っちゃうだろ?」


望遠鏡と、真っ赤に染まる臨也さんの顔を交互に見つめる。――絶対不似合いだ。なんせ爽やかすぎる。臨也さんは見た目だけは爽やかだが、内面を知っている僕にとっては違和感がありすぎた。つい吹き出すと、臨也さんは僕に殴り掛かってきた。照れ隠し、なのかな。僕はヘラリと笑いながら、一緒に星を見ましょうよと囁いた。





キラキラ光る、



―――
30000打フリリク企画!
ツンデレ帝臨とのリクエストでしたが、ツンデレに見えますでしょうか……ドキドキ。私のイメージは少しズレているかもしれません><
企画に参加してくださってありがとうございました!



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