(ふざけています)







ポケットに手を突っ込んで歩くのは危険だということを知っているか?俺は知っているし、常識だと思っていたのに。何て言うか、その―――率直に言うと、ヘマをした。
駅を歩いている最中、コートに両手を突っ込み指先で携帯をいじって遊ぶ。スライド式の携帯は、手の中で伸びたり縮んだり。シズちゃんに会おうと思って池袋行きの電車に乗った。
その時だった。俺はなんとも間抜けなことに、電車に入る直前に片足を引っかけてコケてしまった。手を出していれば受け身を取れたものの、ポケットの中から手を出すよりも早く顔面が着地した。電車の床は堅くて痛い。それよりも、周りの白い視線の方が痛かった。笑ってくれるならまだしも、見てるだけって――。


(うわあああとんだ羞恥プレーだよ!まぁ、ちょっと耐えればすぐ池袋だもんね!おれ大丈夫なんとかなるさ!こんなにもシズちゃんが愛しいのなんて初めてだ!シズちゃんラァブ!)


何事も無かったかのように、もそりと体を起こす。ガラス越しに流れるビルを眺め――るフリをして、頭の中ではいろいろな言葉がぐるぐると駆け回った。顔が熱くて、心臓がバクバクうるさい。こんな感情、初めてだ。人間はこれを羞恥心と呼ぶのだろうが、今まで羞恥を感じたことがなかった俺には新鮮で威力が大きすぎた。


(熱いよ体があっついよ!ああもう、この電車遅くないか?くそっ、電車まで俺を馬鹿にするのかそーかそーか、ていうか早く着いて!………待てよ?シズちゃんがこのことを知ったら……俺は一生馬鹿にされ続けるんじゃないか?あの単細胞なシズちゃんにだよ?うわああこんな屈辱無いって!)


ハッとした時のように口を押さえ、視線を外に流す。どうしよう、誰にも言えない。誰か一緒に笑ってくれる人が出来たら、少しは気持ちが軽くなったのに。
ああ、これで俺の明日からのニックネームは「カッコつけマダオ!」あ、マダオっていうのはマジでダサいオリハライザヤ。自分で考えて自分で悲しくなった。我ながらなんつーネーミングセンスなんだ。
池袋というテロップが流れ、俺は降りる用意をした。気持ちを落ち着かせようと、無意識の内にポケットに手を入れて。手を突っ込むことは癖になっていたらしい。俺はまた同じ過ちを繰り返そうとしているのだろうか。だとしたら相当の馬鹿だ。しかし、手を入れていることすら気付かない俺は危険の橋を渡っていることにも気付かない。あ、いや、さすがにもうコケなかったけどね。


「シっズっちゃああん!単細胞で馬鹿力なシズちゃんに、こんなに会いたくなるのは初めてだよ!」

「寄んな触んな熱いウゼェ」

「ああ!冷たくても反応をくれる君が大好きだ!」

「キモイキモイキモイキモイ。誰かノミ駆除持ってきてー」

「っふふ、おいおい君は馬鹿か!認めたくないが俺はノミ蟲というニックネームだ。でも、だからって実際ノミってわけじゃないんだよ!シズちゃんのばーか!」

「手前はいきなり来たかと思ったら、なんかよくわからんが暴言ばっかり吐きやがるんだなぁ……?それが手前のルールか?だったら俺が手前を殴ったとしてもあいさつとして受け取ってくれるんだろう、なぁ!」

「へぇ、シズちゃんにとっての拳はあいさつなんだ!さすが単細胞!考えることが違うね!」

「手前はさっきからなんだよ俺を馬鹿にしやがって!このクソ、ノミ、がぁあああ!」


そして拳とナイフがぶつかり合うのであった。















(ポケットからは手を出して歩きましょう!じゃなきゃ痛い目見ますよ)

あー、シズちゃんいじめるの楽し!


―――
臨也は自分より単純馬鹿なシズちゃんがいることが嬉しかったようです……って子供かオリハラサン^^笑



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