某ファーストフード店でシェイキーをキュイキュイしているシズちゃんを発見した俺は、平静を装いながら店内に入っていく。シズちゃんも近付いてくる俺に気付いたのか、一瞬眉根を寄せてから空席の椅子を引いてくれた。隣に来いってことだよね、シズちゃんってば紳士。ちょこんと座って片手をヒラヒラさせながら笑うと、シズちゃんの大きな手が一瞬だが頭をわしゃりと撫でるような動きをした。俺らのツーショットがこんな公の場に揃うなんて珍しい。それよりも問題がひとつ浮上した。入って来たはいいが、特に腹が減ってるわけでもなく。俺どうしよう何すればいいの。
チラッと見た机上には、煙草に赤いスラッシュが走ったものが置いてあった。ここは禁煙席らしい。馬鹿だなぁシズちゃんってばヘビースモーカーなのに禁煙席来ちゃったなんて。そう言いながら腹を抱えてカラカラと笑ったら、頬を軽く、あくまで軽くひっぱたかれた。シズちゃんにとっては軽くても俺にとっては威力が抜群で。つい涙目になりながら小さく呻いてしまう。


「シズちゃんのばーか手加減知らない単細胞。あー、痛いなぁもう……これだから耐性が無いのは嫌なんだよ」

「あ、何か言ったか?喫煙席行きたかったんだけどよぉ、満席だったから仕方なく禁煙席来たんだよ手前笑うんじゃねぇ」


片手にシェイキーを持ちながら、しかめっつらをほのかに染めるシズちゃん。痛みに悶える俺に向かって笑ってるなんて、どうかしてるよ君の目。さすがにニコチン切れなのか、落ち着きなくそわそわしている。ちょっと煙草吸ってくる、と一言。シズちゃんは飲みかけのシェイキーを俺に押し付けて、席を立ってしまった。頭を掠めたのは先程浮かんだ問題で。俺はまた、どうしようと悩んだ。何も食べないのに居るのも変だし、だからって――。
渡された、というか押し付けられた生温いシェイキーを見て、俺はゴクリと生唾を飲み込む。これさっきまでシズちゃんがくわえてたストローだよね。飲むフリでもすれば、何もしていない俺も店員に追い出されないで済むけど……間接ちゅうになっちゃうよ。いいのかなぁ、俺はいいけど、ていうかむしろウエルカム。


「しっ、しししシズちゃんのストローくわえたら完璧殺されるかもしれないけど今はしょうがないよね!」


ストローをつまんで、ぶつぶつと自分にしか聞こえない声で呟く。チラリと周りを見ても、自分を気にしている人間は居ないし、シズちゃんもどこか遠くで煙草を吸ってるはず。なんか考えるのめんどくさくなった、フリでもなんでもいいからもう飲んじゃえ。シズちゃんみたいにシェイキーをキュイキュイする。甘くて温い液体が喉を通るのがわかり、背筋がゾクリとした。俺、悪いことやってるみたい。でもこれ癖になりそう。だってシズちゃんの唾液がコラボしたシズちゃんのシェイキーが俺の喉を通って俺の胃に落ちてるんだよ?
ズゴゴと吸っていたら、シズちゃんが帰ってきた。慌てて口を離しても、もう遅い。シズちゃんがニッコリ笑って「何してたんだ?」と聞いてきた。シズちゃんの笑顔ほど怖いものはない。いつもみたいにブチ切れたら俺だって立場あるのになぁと思いつつも、何事も無かったかのようにヘラリとその場から立ち去ろうとした。しかしシズちゃんの手がそれを許してくれなくて、肩を押されて椅子に引き戻されてしまった。


「楽しそうだなぁ、あ?もう一度聞くが何してた?」

「何って、シズちゃんとの間接ちゅうを楽しんでたんだよ!聞いてよシズちゃんこの何とも言えない一体感!」

「黙れ変態がぁあああ!」


表に出ろ、と引かれるままについて行く。やばい俺マジで殺されるかも。だからって謝らないけど。そんなこんなしているうちに、シズちゃんはピタリと足を止めた。対応しきれなかった俺はぶつかり、跳ね返されるように尻餅をつく。立ち上がろうとしたらグイと引っ張られ、気が付いたら視界いっぱいにシズちゃんの顔が広がっていた。頑なに閉じても侵入してくる赤い舌が俺の思考を鈍らせる。離された瞬間にガバッと入ってくる息に耐えられなくてゲホゲホ咳込んでいたら、シズちゃんは煙草を取り出しながら「ざまぁみろ」と呟いた。口の中が苦い。これだから煙草の数を減らせって言ってるのに。















(王子様はニコチン中毒)

シズちゃんってば純情だよね本当


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