「リップクリームって」のリバ












以前、あいつにリップクリームを塗られたことがある。すり込むように、ゆったりと唇をなぞられて。それはもういやらしい手つきだった。あんな恥ずかしい思いをしたのは初めてだし、抵抗出来なかった自分を情けなく思う。
だから俺は、仕返しを込めて塗り返してやろうとリップクリームを片手にあいつを待っていた。黒いコートに身を包むターゲットを見つけ、俺は背後から飛び付いた。振り返る隙も無いまま押し倒された臨也の腕を、後ろでひとまとめにする。これで手前も抵抗出来ないよな、ざまぁみやがれ。


「……誰」

「また会ったな、臨也君よぉ」

「なんだシズちゃんか」


俺だとわかった瞬間、強張っていた体から幾分か力が抜けたようだ。臨也自身からこちらに向き直る体制になり、ゆるりと笑った。腕が拘束されているというのに、気にしない様子で俺を見上げる。あいつの余裕な笑みに、俺の体は勝手に動いて気付いたら唇をふさいでいた。堅く閉じた唇をこじ開け、逃げ惑う舌を絡める。臨也は逃げようと躍起になっていたが、逃がすわけもなく後頭部を押さえ付けた。なんだよ俺、余裕無ぇみたいじゃんか。


「リップクリーム塗ってやる」

「……っ、なに言ってんの。それくらい自分で出来るってば」

「俺だってそう言った」


息も絶え絶えに吐き出す言葉は、正直言って説得力が無かった。リップクリームを指で掬い、喋り続けようとする唇に塗りたくる。ガリと親指を噛まれたが、あえて怒鳴らずに笑顔をぶつけた。それが不気味だったのかリップクリームがマズかったのか、臨也は顔をしかめながら口をつぐんだ。俺はあいつの顎をクイと掴んだまま親指を往復させる。
どのくらい時間が経ったのだろうか。ギュッとつむっていた臨也の目が不意に開かれた。潤んだ瞳に、淡い桃色に染まった頬。その姿が、ノミ蟲のくせに妖艶だった。


「シズちゃ……も、いいでしょ?苦しいし恥ずかしい」

「ん、あー、しょうがねぇな」


俺はこいつのこの表情に弱いのだろうか。目を逸らしながら頬を掻いて体を起こし、ふと浮かんだ考えにハッとした。よく、よくよくよーく考えてみたら、俺はなんて恥ずかしいことをしたんだ。先程までの映像のフラッシュバックが止まらず、染まり始めた顔を隠しながら片手をヒラヒラさせ「忘れてくれ」と言い残して足早に立ち去る。腕の拘束を解くのも忘れて。思い出したのは数時間後。臨也は立ち上がることも出来ずにずっとそこに居たらしく、半ベソ状態だった。















(リップクリームとは)

こういうものなんですか?


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