白と黒のオセロは、どう頑張ってもその二色にしかならないのだ。それは誰しもが知る事実であり、誰にも変える事は出来ない。
クスクス笑いながら、一面真っ白に置いたオセロをパチンパチンとひっくり返す。黒に侵食されていく様が、面白くて面白くて。あなたは僕を侵食しているつもりかもしれないけど、違う、全然違いますよ。僕があなたを喰い尽くそうとしているのに、あなたは全く気付かない。
クッと唇の端を吊り上げ、無造作に掴んだオセロをバラバラと手の平からこぼす。ああ、なんて愚かなんだ。僕らはこんなに近くに居るのに、あなたは全然気付いてくれないなんて。皮肉にも程があるでしょう?これじゃ僕の独りよがりでしかない。あなたも早くこのゲームに参加してください。僕の手駒に、なってください。あなたの駒のフリをして、あなたに近付いている僕の手駒に。


「さあ、始めましょうか」

「……帝人君、もっと肩の力を抜いたらどうだい?力みすぎだよ」

「なに言ってるんですか」


オセロを指で摘んでクスリと笑う臨也さんに、いつものような営業スマイルをぶつけた。僕が腹の中に抱えている感情を何も知らないくせに、呑気な人だ。臨也さんの細長い指が、オセロを奇妙な形に組み立てていく。僕は眉根を潜めて盗み見た。黒い部分を背中合わせにしたふたつのオセロをクルリと回転させたら、机上に倒れたときに白と黒に分かれた。
臨也さんは白を指差して「君は黒には成り切れない」と囁いた。正直、意味がよくわからなかった。僕は黒に成り切れない、と――それは僕にまだ迷いがあるからなのかもしれない。見破ったんだ、この人は。やっぱりただの情報屋じゃなかった。面白い、すごく暇つぶしに最適な対戦相手を見つけた。


「君はさ、まだ怖いんだよ。こっちに完全に踏み入ることが」

「そんな事、言ってる余裕あるんですか?」

「おいおい、君がヘマをしても俺は知ったこっちゃないんだよ。故に手助けなんて一切しない。アドバイスするなら、君はもっと慎重になるべきだ。勢いで行ける向こう見ずなところも嫌いじゃないけどね」

「……ありがとうございます」


営業スマイルを絶やさないまま、おもむろにオセロをひとつ、ギリリと握りしめる。――しい悔しい何も言い返せなかった悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい僕より一枚上手だった悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい僕は覚悟を決めた。




本当の、覚悟を。




臨也さんは、面白いものを見たかのようなにくったらしい笑顔を浮かべている。それを冷静に見つつも、もやもやぐるぐると感情がうごめく。僕は灰色なのだ。まだ、灰色の段階なのだ。まだ、良心や恐怖心が残っているのだ。まだ、まだまだまだ――。
引きずり落としてみせます。ニィと微笑み、握っていたオセロを机上にカタリと落とした。










白か黒ならをとるという偽善

(いい子なんて、もう飽きました)



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素敵企画「跪け狂信者」様に提出させて頂きました……!覚醒帝人様、すごく楽しかったです!ありがとうございました!


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