《そういえば、今日、委員会で伝えきれなかったことを思い出したので学校来てください。遅刻厳禁。》

携帯の液晶パネルをパタンと閉じ、溜息をひとつ。朝っぱらから気分が沈んだのは、ぶっちゃけるとめんどくさいから。なんで夏休みなのに学校へ行かなきゃいけないんだ。しかも、たったこれだけの用事で。ま、僕はクラス委員だからしょうがないよね。思ったより仕事があって大変だけど、やり甲斐があるから頑張るんだ。うん、僕、頑張る。ボソリと呟き、制服に着替えて照り付ける太陽の下に飛び込んだ。
数分、いや、数秒歩いただけで汗が頬を伝う。蜃気楼が見えるんじゃないかと思うくらい歪む街で、汗を拭いつつダラダラと足を進めたら、たまに池袋に出没する新宿の情報屋がビルの影で伸びているのが見えた。えぇと、この人ふざけてるんじゃないだろうか。この暑い中で黒いコート……って違う違う。倒れているのかな。熱中症だったりして。だとしたら大変だ!


「い、い、臨也さん!」

「……………………」

「返事、してください!」

「う……み、ず……水を」

「あなたは砂漠で遭難した季節馬鹿ですか!ぬるくてもいいなら、水ありますよ」


体はこんなに熱いのに、汗を流していない。むしろ、青白い顔だけ見れば涼しげだ。ペットボトルに入った水をその顔にぶっかければ、ぶあぶあと手足をじたばたさせて変な動きをした。臨也さんは、生き返ったーとヘラヘラ笑って濡れた髪をかきあげる。この人は本当にアホなイケメンだ、と腹の底から笑いたいのを堪え、サラリと業務的な笑顔を浮かべる。


「コート、脱いでください」

「やだ、帝人君ってば変態!」

「あなたに言われたくありません。こんな場所でいちいち倒れられても、僕が困ります」

「心配してくれてるんだね!ありがとう帝人君、やっぱり君は……」

「違います」


互いにヘラリと笑いながら、どこか噛み合っていない会話を進める。ポケットの中で携帯が振動し、電話がきたと僕に知らせた。すみません、と臨也さんに背を向けて通話ボタンを押したら、委員会の責任者からの催促だった。あ、いけない忘れてた。
慌ててペコンと頭を下げ、学校まで走る。臨也さんは再度「ありがとう」と言って小さく手を振った。彼のせいで、今までも暑かったのにさらに暑さが増したように感じられる。
でも、ちょっとラッキーだったかも。ちょっとだけ、ね。















(夏にやられたのは彼だけじゃない)

僕……ッゲホ……もう走れない


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