「そうだ、ナンパに行こう」 この言葉が出たのは、正臣の口からではなく自分の口からだった。正臣の口癖が乗り移った、というよりも受け継いだという方が正しいのかもしれない。しかし誰彼構わず声をかける正臣とは違い、自分には相手が決まっていたし、むしろ一人しか居ない。さてどうしようと呻きながらうろうろしていたら、当のご本人登場。勝手に目の前に現れてくれるから、特に苦労する事なく捕まえられる。 何て言うか、わざわざ罠にかかりに来ている感じなのはやっぱり意図的なのかな。それともただの偶然なのかな。何か考えがあって来るのか、たまたま通り掛かっただけなのか。どちらにせよ、こちらにとっては好都合なのだが―――。 「臨也さん」 「わ、お……やあ帝人君」 僕に声をかけられた臨也さんは、一瞬だけだが明らかにビクリと体を跳ね上げた。しかしすぐに冷静さを取り戻して、何事も無かったかのように振る舞おうとしている。この様子からして、やっぱりたまたま通り掛かっただけみたいだ。そそくさと立ち去ろうとする臨也さんのコートの裾を掴む。一瞬目を真ん丸くして、すぐに諦めたように苦笑した。 「帝人君に捕まっちゃった」 「臨也さん捕まえた」 まるで鬼ごっこをしている時の子供のように無邪気な台詞。しかし一見はただの自称永遠の21才と、制服を着た高校生なのだが。この時、二人の中で何かがバチリと電撃のように通じ合った。言葉で言い表せないような不思議な感覚が体中を駆け巡る。僕の中に、臨也さんは寂しがり屋なのかもしれないという奇妙な考えが浮かんだ。何故、と問われれば上手く答えられないが、ただ純粋にそう思った。 「臨也さん」 「なんだい帝人君」 「呼んだだけです」 「そうだと思った。君って案外寂しがり屋なんだね」 どっちが、と心の中で呟く。意地っ張り臨也さん。気付かないとでも思っているのだろうが、鈍感だと言われる僕でもすぐに気付けるのも当然だと思った。だって、ずっと見ているから。ずっとずっとずっと、あなただけを見ているのだから。 「………ねぇ、ひとつ聞いていいかな?」 「どうぞ」 「何で笑ってるの?」 「内緒です」 臨也さんは、へらへら笑う僕を不思議そうに見て首を傾げた。もしかしたら僕しか知らない秘密かもなんて思ったりしたのは、臨也さん自身も気付いていない様子を見せているから。大丈夫、僕も静雄さんも、セルティさんも新羅さんもみんなみんなあなたの側に居ますよ。その意を込めた笑顔だったんだけど、気付いてくれたのかな。 (寂しいんじゃないの) 寂しいくせに、嘘ばっかり。 |