「シェゾシェゾ、外行こうよ」

「いくら夏でも夜は寒いぞ」

「ほら、行くよ!」

「強制かよ……やっぱりな」


明後日の方向を向いていたらマントを掴まれ、腕組みをしたままズルズルと引っ張られていく。いつも提案が突発的なんだよなあ、ホント。それでも、レムレスの行動には何かしら理由があるから悪い気はしない。
外に出た途端、体がふわりと浮くという怪奇現象が起こった。嫌な予感がしたが、疑う間もなくそのままギュンッと空を飛行。残念ながら俺の予感は的中したようだ。レムレスめ箒に乗りやがったな、しかもちゃんと箒に乗って無いんだが、俺。首締まる首!レムレスは俺が乗る暇も与えず、マントを掴んだまま箒に飛び乗って超最短距離を飛び上がる。目的地が屋根だったとしても、その時間は生きた心地がしなかった。


「………レムレス。乗るなら乗ると言っておけ。あと俺をぶら下げるな」

「あ、ごめん。この距離なら大丈夫かと思ってさ」


レムレスは、箒を抱きしめながらストンと屋根に腰掛けて柔らかく微笑んだ。調子狂うなあ、と頭を掻きながらレムレスの横に腰を下ろす。空には無数の星。プリンプの空は綺麗だ。ボーっと眺めていたら、レムレスが腕を伸ばして空を仰いだ。前にも見たことがある動作に、しばし過去を振り返る。
レムレスは、虹を飴に見立てたり雲を綿菓子に例えたりと、ちょっと不思議な存在だと思う。その度に「みんなに食べさせてあげたいなあ」と微笑み、両手を広げて空を仰いだ。
ああそうか、これだこれ。記憶のピースが繋がって靄が晴れた。俺はその横に佇んで首を小さく傾げる、というのがいつもの流れだ。だってホラ、なんか不思議じゃないか。普段からお菓子を配っているのに、さ。


「綺麗だよね」

「ん、ああ」

「今日はね、一年に一度だけ織り姫と彦星が会える日なんだって。すごい話だと思わない?」

「………七夕、か」

「へぇ、シェゾも知ってるの?」


不思議そうな顔をするレムレス。そんなに知らないように見えるのかな、俺。プリンプの住人にも知識はあるらしいから、七夕とは全国共通のようだ。そんなにたくさんの人に知られているのだったら、織り姫と彦星も幸せだろうなあ。一年に一度だけしか――寂しく、ないのかな。
うむ、と顎に指を添えてじっくり考えてみるが、余計にこんがらがってよくわからなくなってしまった。レムレスも同じようなことを考えていたのだろうか、ポツリと呟いた。


「会えないのは……確かに寂しいけどさ、それよりも会えるまでの日が楽しみだなあ。なにか目標があれば、どんなにツライことがあっても頑張れると思うんだ」

「そういう考え方も、あるんだな」


レムレスの発想は面白い。いつも驚かされてばかりで、そのくせ妙に納得しちゃって。不思議な表現力を持つレムレスと出会ったことで、俺の世界観も少なからず変わった。まさかこの俺が、なんて思わず苦笑する。
隣で、あの星が欲しいなあと呟く小さな声。「何故、」と問い掛けようか迷い、結局口をつぐんだまま星を見上げた。レムレスが物を欲しがるなんて珍しい、だから何かしら理由があるはずだ。ただ、俺は深追いしてはいけないのかもしれないと、直感だが思った。















(夜風に瞬く、あの)

一年に一度だけ、か……耐えられないかもなあ。どれほど強い想いで結ばれているのだろうか。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -