人を信じなきゃいけない立場だってことはわかっている。だって僕は“優等生”だから。みんなに認められなきゃいけない堅苦しいレッテルを貼られた身にもなってほしいなあ、なんて言えないし言うつもりもない思ってみただけ本気じゃないから。これが僕の生きる理由で僕の存在意義で、じゃあ本当の僕は一体どこに居るの。心の中でひとりかくれんぼをしていることをみんなは知らない。僕が笑うことにみんなは気付いた。僕は泣かないことをみんなは気にしない。そう、それでいい。だって僕は泣かないのだから。ヘラッとばかみたいに笑う、薄っぺらい仮面を付ける、それでも泣かない。


「それは泣かないんじゃなくて、泣けないんじゃないのかな?」


彼の言葉にザワザワと髪が逆立つ。仮面は簡単に剥がれた。苦虫を潰したように口を曲げ眉根を寄せる。彼はなにを言っているのだろうか。意味がわからない。これはきっと僕の聞き間違いだ。さりげなく指で頬を上げ口元だけでもと笑顔を作る。そうだ聞かなかったことにしよう。彼には申し訳ないけど僕にはさっぱりだから。
優等生というレッテルを貼られたときから感情というものに欠けて育ってきた。親の要望に応え教師の期待に応え自分を押し殺して優等生を演じた罰だと心の片隅に居る小さい僕が囁いた。その幼い声が聞こえる度に僕は何度も何度も殺そうと躍起になったが小さい僕は隠れ上手でいつも見つからない。ひとりかくれんぼは未だに継続していて忘れた頃に出てくるから欝陶しくてしょうがなかった。


(ねえねえ、そんな偽って楽しい?)

「楽しいわけ、ないじゃないか」

(ふうん、でも、感情がないなんてただの人形だよ)

「……るさい。君は僕なんだから気持ちくらいわかるだろう?」

(人形さんの気持ちなんてわっかんなーい)


明るく笑う声に嫌気がさして首を横に振る。同じ“僕”のはずなのに何故こんなに楽しそうに笑えるのか。謎は深まるばかりだが僕の中に彼はもういなかった。そして僕も“小さい僕”の存在を忘れた。







泣かないんじゃなくて泣けない。図星だったから胸中がざわついたのだと気付く。依存している甘いものを舌先で小さく舐め僕は首を傾げた。最後に泣いたのはいつだろう。そもそも泣いたことがあるのだろうか。記憶に無い。僕はさらに首を傾げた。だからと言ってべつにどうってことはないのだが頭から離れなかった。
鏡越しにニイっとこちらを見る僕は確かに笑顔を浮かべているのにどこか不自然だ。なにが、と聞かれたら答えられないくらい些細なことでしかない。自分のことなんてどうでもよかった、もともと興味がなかった。ならば執着しているものもないと思われがちだがひとつだけある。それは甘いものなのだ。どの言葉も安っぽくて当て嵌まらない感情のようなものを唯一僕に与えてくれた。そのときだけ僕は人間になれた。


「おい小さい僕よく聞け。今の僕にはちゃんと感情がある。人形なんて二度と言わせるものか。わかったらお返事しなさい」

(そんなのつまんない。どのような境遇にしても、ぼくが望んだからこそ今のぼくが居る。そうでしょ?隠したってムダだよ、ぼくには全部わかるんだから)


小さい僕は笑わずふて腐れ言いたいことだけ言って隠れた。僕はもうなにも言わなかった。言わなくても伝わってしまうのだから、それでいいんだ。















(かくれんぼしましょうか)

すぐ見つけることだって出来るくせに僕は見て見ぬ振りをする



―――
よくわからない文章ですみません。最初に出てきた「彼」はご想像にお任せします……!




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