ドキドキする心臓を押さえ、震える指でチャイムを押したはいいがすぐに逃げて物陰に隠れる。数秒後――ドアから覗き出す顔には疑問符が浮かんでいた。だってチャイムが鳴ったにも関わらず、視界の先には誰もいないのだから。しばらくぼーっと眺めてから静かにドアを閉める姿を確認して、はふうと息を吐き出す。


(だめだ……やっぱ無理)


そっとドアの前まで行ったが、一度に勇気を使い果たしてしまったからもう出来ないと確信していた。ドアに背中をもたれ掛けたまま、力無く壁伝いに腰を下ろす。自分を照り付ける空を見上げ、自然とこぼれそうになる溜息を飲み込むと、足の間に顔を埋めた。
何故だろう。こんなに簡単なことなのに、自分と葛藤してこんなに近くまで来たのに、何も出来なくなってしまう。相変わらず心臓は跳ねたまま、気付けば俺の全身の鼓動になっていた。太陽が眩しい。顔を隠すように片手を翳すと、太陽の光を受けて黒い影になった。


「影―――闇、か」


闇――そう、俺は闇なんだ。あいつは俺と真逆の光らしい。自分が闇か光かで迷っていた姿を何度も見ているし、周りからあいつは闇だと疑われた時期もある。レムレスは否定することも奮闘することもなく、ただ受け入れた。しかし、結局は光だったのだ。俺には眩しすぎる、光。
やっぱり俺じゃあいつを―――。ここまで考えていたら、不意に開いたドアに押されて頭を打った。ドアの先にある違和感に気付いたレムレスは慌てて謝罪する。


「わっ、ごめんなさいどちらさまですか」

「……ってぇ」

「……なんだシェゾか」


レムレスの安堵した声に、少しだけ複雑な気持ちになった。俺ならいいってのかよ、俺なら。しゃがんだままくるりと振り向いたら、レムレスの顔は光を浴びて透き通っていた。ということは、俺は逆光であいつからしてみれば黒い影にしか見えないってことか。こんなにも真逆な俺達が交わっているのは、なんとも不思議なことだ。だからこそ、何も言えなくなる。先程からレムレスがへらへらと笑っているから、つられて俺も笑う。なんかもう、光だの闇だの、どうでもいいかもな。こうして笑い合えるのだから。















(何も言えずに君の顔を、ただ眺めていたかったんだ)


「で、どうしたの?来た理由あるんでしょ?」

「何でも無ぇよ」

「ピンポンダッシュしたくせに」

「なっ……何でそれを……」

「なんとなく」



―――
フォレノワールには黒い森という意味があるらしいので。




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