今日は一年に一度、お菓子を配ったりもらったりする日だ。いつもは胡散臭がられて(どうしてだろうね)もらわれない可哀相なお菓子たちも、今日はみんなにもらわれていく。なんだか我が子が旅立つみたいでちょっぴり寂しいけど、嬉しい気持ちのほうが大きかった。よかったね、とバスケットいっぱいに詰まったお菓子を見る。ハロウィン仕様の包み紙が、光を浴びてチカチカしている。
空気を読んで、今年は変装もした。と言っても、ただ真っ黒いマントを羽織っただけだけど。去年は変装しなくて散々な目に合ったから。みんなが居る学校に向かっていたら、おおかみのような格好をしたシグと出会った。無表情のままふわふわした耳と尻尾を付けている。なんだか違和感があった。反面、シグらしいなあとも思う。


「はっぴー、はろいーん」

「やあシグくん」

「おかしをくれなきゃ、いたずらするぞー」


シグは両手を広げてお菓子を待っている。作り物の尻尾が、ゆらゆらと揺れたような気がした。合言葉は?と聞くと、なにそれと返ってきた。じゃあヒントね、トリックオア。とーすと?惜しいけど違うよ。とりっぴー?それ違うってむしろ離れてる!ううーんわかんないよう。一緒に言ってみようか。
トリック、オア、トリート。シグも僕につられて「トリート」と言う。はいどうぞ、と大きなスウィートキャンディを手渡したら、シグの口元が少しだけ緩んだ。そしたら、まるで昔の童話のように僕の後をひょこひょこついて来た。渡したのは、きびだんごじゃなくお菓子だけどね。手招きをして、駆け寄ってきたシグと肩を並べる。やっぱり、一緒に歩きたいから。




学校に着いて、会う人みんなにお菓子を配っていたらシェゾに会った。いつもと変わらない姿から、ノリの悪さがわかる。まあ彼がこんな浮足立った行事を素直に楽しむはずがない。みんなに言ったのと同じように、合言葉は?と問い掛ける。すぐに返ってくるとは思っていなかったから、のんびり笑顔を浮かべて待った。


「限定カフェオレ味があるよ」

「じゃあそれをもらってやる」

「合言葉は?」

「トリップ……だったか?」

「ううん違う。トリック、オア」

「……うーん、わかんねえ」


頭をかしかし掻くシェゾの口に、彼のためだけに作ったカフェオレ風味のスウィートキャンディを突っ込む。ハッピーハロウィーンと手を振ったら、片手をふいと挙げた。なんだかんだ言ってみんな楽しんでいるみたいで良かった。気が付いたらバスケットの中身はからっぽになっていて、僕のほっぺたはゆるゆるだった。甘いものって、すばらしい。甘いものって、世界を平和にするんだ。















(合言葉を教えてください)

そしたらたくさんのお菓子をあげます



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