紫陽花誕生日












雨が降ってきた。最初は静かだったのに、みるみるうちに強く吹き荒れる。重たい雨が纏わり付き、体温を一気に低下させた。だから梅雨って苦手なんだ。舌打ちをしつつも、雨が強くなる度に進める足を速くしていった。
屋根の下で一旦落ち着く。乱れた息を落ち着かせようと肩を上下させ、その場に腰を下ろした。あぁ疲れた走るのなんて久しぶりだ……っと、眼鏡。濡れて役割を果たしていない眼鏡を外し、髪から滴る水滴にイライラしながらも眼鏡拭きを探す。周囲との温度差に対応出来なくて曇ってしまう眼鏡をかけ直し、ふと気まぐれに視線を泳がせてみた。紫陽花の、並木道。雨の滴を含んだそれらは、重い頭を持ち上げて可憐な花びらをチラつかせた。立てた膝に腕をかけて眺めていたら、青いアンテナがピコピコとうごめいた。見覚えがあるような無いようなそれに、つい眉根を寄せる。


「あじさい、きれいだね」

「あぁ、やはり貴様だったか」


アンテナの正体は小学生が被るような黄色いレインコートを身に纏い、長靴を水溜まりの中に浸水させていた。ぴちゃんぴちゃんと遊ぶように水を跳ねさせながら鼻歌を歌う姿が、なんとも子供らしくて少し調子が狂う。あぁくそ、何故だ。アンテナをピコピコさせたままこちらにやって来て、横に腰かけた。そのまま互いに口を開かず、ただ咲き乱れる紫陽花に見入っていた。
いつの間に雨が止んでいたのだろうか、気が付けば灰色の隙間から青空が顔を出していた。ふにゃりとした笑顔を見せるシグを横目に、自分も苦笑に似た笑顔を浮かべる。笑い慣れていないから、こんなへたくそな笑顔しか作れない。シグの頭をくしゃりと撫で、そろそろ帰るかと立ち上がった。














の並木道

今年も紫陽花が咲く季節になりました





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紫陽花誕生日!こっそりフリーです。誕生日っぽくないですね……あやちゃんとシグの、とっつかないけどお互い必要かもしれないと心の隅っこで思っている感じが好きです。



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