夢のあとさき
06

「シャバの空気だ……」
砂嵐の中でそうつぶやくのもバカバカしいが心情は言葉の通りだった。いやー、脱出成功してよかった。ディザイアンの装備を脱ぎ捨ててマントをかぶる。
とはいえこのままここに留まるのは危険だ。数日間しっかり休んだし、急いで砂漠を抜けて海を渡ろう。方角を確認しながら私は足早にオサ山道へと向かった。
けれど人が多いというのはそれだけで強みだ。気配を感じて隠れるとその辺をディザイアンがうろついていた。山道を越えるにもここは一本道だし、待ち伏せされたら逃げられないかもしれない。
「うーん、ここって昔は鉱山だったんだっけ」
行商人に聞いたこと、リフィルに習ったことを思い出す。だったら抜け道が他にあるかもしれない。探してみると予想通り管理用の通路と思しき穴が見つかった。
「よしよし、ツイてる〜」
薄暗い坑道を抜けて出口へ向かう。警戒してみたがどうやらディザイアンはいないらしい。ホッして、それでもこそこそと山道を抜けた。
日が暮れつつあったがその日は夜通し歩いてイズールドへ向かった。船が出るならおそらくここだろう。夜は村に入れなかったので外で日が昇るまで待ってから小さな港へ行った。

「パルマコスタへの船?」
尋ねると漁師らしい男性は眉をひそめた。
「このご時世だからねえ。海は魔物も出るし……」
「どうしても船はでないのか?」
「そうだね。パルマコスタの軍用船が来れば帰りは乗せてもらえるかもしれないが」
「それはいつだ」
「分からないなあ」
お手上げである。船が出ないとなると大陸伝いに行くのが一番だが……強い魔物が出るとかで敬遠されてるらしい。
「困ったな」
「急ぎの用事かい?」
「そんなところだ」
ぐずぐずしてたらディザイアンに追いつかれてしまうかもしれない。参ったな。陸路で行くしかないか。
漁師に礼を言ってとりあえず宿をとる。そして村を回って物資を調達した。
強い魔物が出るというのだから急いでいても準備はきちんとすべきだろう。宿で睡眠をとり翌日改めて港に確認しに行ったがやはり船は出ないらしい。

イズールドを出て北上する。ディザイアンを警戒していたけど彼らの姿は見当たらなかった。この近辺はイズールドくらいしか町や村がないからディザイアンの支配もあまりないのかもしれない。
「しかし、ディザイアンの目的ってなんだろう」
考えながら歩く。人間牧場というが、人間を食べるわけでもない。見た感じだとディザイアンは人間を虐げているだけで目的は分からない。何かを作っているんだろうか?マーテル教の教えだとマナを消費しているらしいが、何で消費をしてるんだろう。魔科学だろうか?でもハーフエルフである彼らは人間ほど魔科学を必要としないと思う。
武器を作っている、のだろうか。ディザイアンは最終的に人間を滅ぼしたいのだと考えると辻褄が合う。でも人間を滅ぼしたいなら今すぐに勢力を拡大して人間を奴隷にする体制を築けばいいのではないか。力が足りないのか、それとも別の目的があるのか。人間でないと作れないものがあるとか……謎は深まるばかりだ。
それにしても、ユアンはなぜ私を殺さなかったのだろう。これも謎の一つだと思った。


- ナノ -