夢のあとさき
03

マントをすっぽり被ると息苦しい。でも直射日光よりはマシなはずだ。そう言い聞かせながら黙々と砂漠を歩く。
旧トリエット跡へは多少迷いながらどうにかたどり着けた。途中盗賊に襲われたが、大したことがなくてよかった。この辺は治安があまりよくないのかもしれない。
火の封印があるという遺跡は、結論から言うと中に入れなかった。石板があり、リフィルの言葉を思い出すとこれは神子を認証するものだという。ならば神子じゃないと入れないのかもしれない。ぐるりと一周してみたが手掛かりはなく、完全に徒労だった。
「はー、こんな暑い中来たのに……」
がっくりきてしまって私はその場に座り込んだ。が、周りだけでも調べられることがあるかもしれない。諦めずに手がかりがないかその辺をうろうろし、夜は野営になった。

砂漠の夜はどうしてこんなに寒いんだろうと思いながら火に当たる。すると何かの気配がして咄嗟に剣を抜いた。
「何者だ」
人だった。あわあわと慌てているのは中年くらいの男性だ。
「す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
「何の用だ」
「その……盗賊に襲われてしまって、逃げ出してきたんだが。こっちに明かりが見えたから……」
男性は行商人らしい。荷物を置いて逃げ出してきたものの、また襲われるかもしれないと怯えていた。
「あなたは手練れのようだ。頼む、トリエットの町まで護衛してくれないか!」
「……だが、荷物がないのだろう。報酬を貰えないと仕事は出来ないな」
「そんな!」
悲壮な顔をする男性にやれやれと首を振った。が、このまま捨て置くのも後味が悪いし。
「行商人だと言ったな?どこから来たんだ?」
「イズールドから……その前はパルマコスタにいたんだが」
「私は旅の者だ。これからそちらの方面に向かおうと思っていた。護衛は引き受けよう、代わりに情報をもらう」
「本当か!ありがとう!」
涙目でありがたがる男性に食料を分け与えながら話を聞く。
イズールドは小さな漁港だが、パルマコスタはシルヴァラント最大の港町だ。そこにはディザイアンの反対勢力の義勇兵すらいるらしい。
このあたりの人間牧場はイセリアにあるものだけだ。流石にそこに侵入するのは村に迷惑がかかるからやめたが、パルマコスタにも人間牧場があるらしい。それに対抗する勢力もいる。そこに行けば何らかの情報が得られるのではないだろうか。
男性はパルマコスタだけではなくそのほかの町の話もしてくれた。遺跡の町アスカードやルイン、ハイマ。ルインの近くにはマナの守護塔があると聞く。そこもマーテル教会関係の建物だし、何かの情報があるかもしれない。
「もし、パルマコスタからアスカードの方に行くなら通行証が必要だ。これは盗られなかったからあなたに差し上げよう」
「いいのか?」
「お礼だよ。砂漠の夜を一人で無事に過ごせるとも思っていなかったからね」
男性はそう笑って眠りについた。私は剣を抱いたまま胡坐を組む。少し意識を手放しても気配がすれば平気だろう。
幸い何事も起きず、夜は更けていった。


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