夢のあとさき
幕間-4

ゼロスはポケットに手を突っ込む。そしてその中の紙片と鉱石を取り出して沈んだ顔をしたロイドに突きだした。
「おらよ」
「……なんだよ、それ」
「レティちゃんからの預かりもの」
「姉さんから!?」
慌ててロイドが手を出す。受け取った鉱石をまずまじまじと見て、ロイドは首を傾げた。
「抑制鉱石……?なんで姉さんが?」
「鉱山でもう一個探してたみたいだぜ。そっちの紙になんか書いてあるんじゃねえの」
「そうだな。ええっと、なになに……」
ロイドは紙に書かれた小さな文字を覗き込む。ゼロスも首を伸ばそうとして押しのけられた。
「あいってー、ひで〜なロイドくん、配達人ゼロスさまを労ってくれよ」
「……姉さん」
軽口を叩くゼロスに沈んだ声が被せられる。ゼロスは今度こそ紙片を覗き込んで文字を読み取った。
「なになに、……しばらく戻りません?」
ただそれだけのメッセージだった。鉱石のことも何も書いていない。てっきりコレットちゃんの話が書いてあるんだと思ってたんだけど、とゼロスは内心で呟いた。
「姉さん……どういうつもりなんだ」
「さあ。しばらく戻らないんじゃねえの?」
「ゼロス。これ渡すとき姉さん何か言ってたか?」
いつになく真剣な顔で覗き込まれてゼロスは考え込むふりをした。
レネゲードの基地から無事レアバードを奪取したロイドたちだったが、最後の最後、タイミング悪くレティが捕らえられた。レティが早く行けと急かしていたのはコレットのこともあるが、人質に取られてしまえば全員捕まるほかなかったからだとゼロスは考える。
あのとき、レティは急に崩れ落ちた。あれはわざとだったのだろうかと勘ぐってしまう。手紙なんかをゼロスに託すくらいだ、ありえなくはない。――それに内容からしても。
「一番狙われるのは自分だから、念のためって言ってたぜ。捕まる気はないともな」
ゼロスはレティの言葉をそのままロイドに伝える。ロイドは俯いた。
「そうか……。この、抑制鉱石については?」
「あー、それな。鉱山で探してる時に言ってたけど、コレットちゃんのためだってよ」
「コレットの?要の紋はもうあるだろ?なんでもう一ついるんだろ」
「……あのクラトスとかいうおっさんが言ってたのを気にしてたらしいぜ。クルシスの輝石を抑えるにはロイドくんの作ったのじゃ十分じゃないかもしれねえって」
「……そうだったのか」
クラトスがコレットに要の紋を外せと言っていたことをロイドは思い出した。クラトスの言うことを姉は信じているのだろうか?それともまた別の理由があるのか。抑制鉱石を握りこんでロイドは考える。
しかし、抑制鉱石があってもあのままではアルテスタが要の紋を作ってくれることはないだろう。急ぐことでもないかとポケットに鉱石をしまい込む。
そして改めてメモを覗き込んで、端の方になにか書きつけられているのに気がついた。
「あ、これ……」
文字ではない記号の羅列にロイドは見覚えがあった。
「どうした?」
「いや。渡してくれてありがとな、ゼロス」
「ど〜も」
軽く手を上げて去って行くゼロスを見送って、ロイドは目を細めた。なぜ姉はゼロスにこの手紙を託したのだろうか。先生でも、ジーニアスでもよかったはずなのに。
その謎は簡単に解けた。羅列された記号は昔遊びで考えた暗号だったからだ。一緒に考えたり使ったことのあるリフィルとジーニアスだったら読み取れてしまっただろう。きっと自分だけに伝えたかったことだろうとロイドは暗号解読にかかる。
「なになに……か、ん、か、く、を……」
――かんかくをなくした。
「……え?」
呆然と紙片を見下ろす。
ロイドは信じられない気持ちで、しばらくその場から動くことができなかった。


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