夢のあとさき
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コレットの疾患を治す者。いや、者でなはいのかもしれない。物か、何か。考えながら歩いているとプレセアがこちらを見つめているのに気がついた。
「どうかした?」
「……いえ」
元気がなさそうにプレセアが首を横に振る。まあ、無理もないだろう。長年の悪夢から醒めたといっても、事態が解決したわけではない。たくさんの問題を抱えながらひとつひとつ心の整理をつけていくしかないのだ。
「プレセア。元気出してね」
「はい……あの、すみません」
「うん?」
急に謝られたので首を傾げた。
「私のせいで……コレットさんがさらわれてしまって、レティさんも落ち込んでいるのに……気を遣わせてしまってすみません」
「ああ、そうか。そうだね。でも、プレセアがエクスフィアを着けていたのはプレセアのせいじゃないでしょう」
一周回って気を遣わせてしまったらしい。確かにプレセアがロディルに加担しなければコレットはそうやすやすと奪われなかっただろう。彼女を責めたくなる気持ちは私にもある。それでも、自分と同じ立場だった――エクスフィアの被験者だったプレセアに同情する気持ちのほうがずっと大きい。
「いいえ。私は、自分でエクスフィアを着けたんです。だから……」
「ちがうよ。プレセアは騙されていたんでしょう?あなたの時間が奪われたことに怒ってるんだよね。だってそうと知っていたらあんなもの、着けなかったと思うよ」
戦いの手段として自ら着けたジーニアスたちとは違う。いいように利用されていたプレセアは、当時子供だったはずだ。それを彼女のせいにするのはあまりにひどいと思う。
「……そう、ですね」
「気にしないでとは言えないよ。だから、一緒にコレットを助けよう」
「はい。必ずコレットさんを助けます」
「うん、絶対に……」
コレットをロディルから取り戻すだけではない。真の意味で彼女を救わなくてはいけない。そうなると、やはり世界の仕組みをどうにかしなくてはならないのだった。
ついでにプレセアにエンジェルス計画の詳細について聞いてみたが、彼女は何も知らないようだった。クラトスの、ロディルが暗躍しているという話が本当ならエンジェルス計画もロディルが勝手に進めているものの可能性がある。クヴァル亡き今、テセアラで続けられているのがその証拠だろう。
つまり、エンジェルス計画の少なくとも一部はクルシスの考えの及ばないところで行われているということだ。なぜ、そこまでしてクルシスの輝石が必要なのだろう?クルシスの輝石は天使化に使われるもののようだが、天使になるため……というのは違う気がする。
そういえば、ディザイアンの計画で伝えられたもう一つが魔導砲の計画だった。あれはクルシスの知るところなのだろうか?クルシスの輝石と魔導砲、繋がるかどうかは分からないが覚えておこう。

落ち込むプレセアを励ましつつ、コレットの病についてリフィルとも話しつつ、私たちはミズホの里へ向かった。レアバードのありかは分かったようだが、動かすには雷の精霊ヴォルトとの契約が必要になる。しかししいなとヴォルトの間には因縁があるようだった。
「だからか……」
しいながヴォルトとの契約に失敗し、結果里の人々の命が失われたという話を聞くと思いだすことがあった。呟きに気づいたらしいゼロスが訊いてくる。
「何が?」
「ああ、しいなが最初にウンディーネと契約するときに随分緊張していたから。ヴォルトとのトラウマがあったんだなと」
「そーか、ウンディーネとはシルヴァラントで契約してたんだったか」
「そのおかげで海も渡れたわけだけど。空を飛ぶのもしいなの協力は必須だから……」
レアバードだけ奪還しても意味がないのだ。しいなに重責をかけるようで心苦しいが、がんばってくれないだろうか。
「しいなのことが心配か?」
「そりゃあね。ウンディーネと契約できたから素質は十分あると思う。でも、トラウマっていうのは根深いから……しいながそれを乗り越えてくれるのを信じるだけだよ」
心の傷というのは払拭するのが難しいものだ。だが、しいななら大丈夫だと思う。うん、信じよう。ルインで一緒に戦ってくれた、強くて優しい彼女ならヴォルトとの契約も上手くいく。
「信じる……か」
「それしかできないよ。もちろん、ヴォルトが襲いかかってなんかきたらこうだけど」
剣を抜いて斬る動作をするとゼロスは眉をあげて笑った。
「そりゃいい。ヴォルトにゃ簡単にやられないってか」
「ゼロスもそうでしょう」
「こんなところでくたばっちゃいられねえからな」
しいなとゼロスはしいながシルヴァラントに来る前からの知り合いだったようだから、ゼロスもしいなのことは信じているのだろう。そんな軽口を叩いているとなんとかなるんじゃないかと気持ちが軽くなるようだった。


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