夢のあとさき
45

プレセアは彼女の父の埋葬を終える頃には気持ちも落ち着けられたようだった。完全にとはいかないだろうが、話はできるようになったのはよかった。
「……パパの埋葬を手伝ってくださって、どうもありがとうございました」
「少しは落ち着いて?」
リフィルの言葉にプレセアは頷く。そして彼女は不幸にも、正気を失っている間のことも覚えているようだった。
話を聞くと、プレセアにエクスフィアを渡したのはヴァーリという鉱山で遭遇した男のようだった。プレセアはエンジェルス計画の被験者だったのだから、ヴァーリがディザイアンとつながっていることは確実になった。
そして教皇の命令で王立研究院で研究がなされていたのだから、ヴァーリと教皇もグルということになる。リーガルが教皇とした「コレットを連れて来ればヴァーリを捕える」という約束は初めから果たす気もなかったのだろう。
気になるのはリーガルとヴァーリの因縁だが、リーガルの知人がエクスフィアの被験者だと言っていたので、これもエンジェルス計画関連なのかもしれない。ひとまずここは置いておこう。
「あの……私、みなさんについていきたんです。だめでしょうか」
身寄りがないということで、プレセアの今後について話していると彼女は唐突にそう言った。
「え、どうして?」
「……コレットさんが連れ去られたのは私のせいです。だからコレットさんを助けるお手伝いをさせてください」
「便乗するようだが……私も連れていってくれ。お前たちの敵は……、私の因縁の相手でもあるようだ」
プレセアに続いてリーガルも言う。ロイドはちらりとこっちを見たが即答した。
「もちろんだ。コレットを助けるためにも二人の力を貸してくれ」
ジーニアス、そしてしいなとゼロスは頷いていた。リフィルの仕方ないといった顔をしている。反対しても無駄なのは分かっているからかな。
プレセアはともかく、リーガルはまだ素性が明らかではない。だが彼が教皇やヴァーリと因縁を持っていることは確かだ。敵の敵は味方、というか、まあ少なくともあちらの勢力を倒すまでは協力してくれるだろう。
「さあ、急いでコレットを追いかけましょう」
「そうだな。あいつら東へ向かったな」
プレセアとリーガルが協力してくれることになったところで、コレット奪還の目算をつける。といっても今は向かった方角しかわからない。このまま何もなしに探すのは無理に等しいだろう。
そう思ったところで見覚えのある人影が現れる。――クラトスだ。
「……神子を奪われたか」
静かに言うクラトスにロイドが突っかかる。
「またあらわれたな!コレットをどこへやった?」
「ロディルは我らの命令を無視し暗躍している。私の知るところではない」
クラトスは静かに答えた。命令系統はクルシスからディザイアンにあるわけだが、無視をしているということはユグドラシルとはまた別の思惑をロディルは持っているわけか。リフィルもそう思ったのか鼻を鳴らした。
「内部分裂というわけ?おろかね」
「否定はしない。しかし奴は神子を放棄せざるを得ないだろう」
「どういうことだ」
「神子は……あのままでは使いものにならんのだ。捨て置いても、問題なかろう」
使い物にならない?その言葉がどうにも引っかかる。
「冗談じゃねえ!何としてもコレットは助けるんだ!邪魔するつもりなら……」
頭に血が昇ったらしいロイドが止める前にクラトスに斬りかかる。だがそれは簡単にいなされてしまった。
「……ならばレアバードを求めろ。そして東の空へ向かうがいい。ミズホの民も、レアバードを発見しているころだろう」
クラトスはそう言って剣を収める。そのまま去ってしまいそうな雰囲気だったので慌てて呼び止めた。
「クラトス!」
歩き始めたクラトスが止まらないのでしかたなく追いかける。ロイドたちは着いてこなかった。
「コレットが使い物にならないというのは疾患に関係があることなのか」
「……その通りだ」
「疾患を治す方法はあるのか?コレットは女神の器だ。方法があるのなら教えたほうがクルシスも得ではないのか」
一番重要なのはコレットが疾患とやらに侵されないことだ。先ほどの痛がりようをみてもあれは尋常ではない。
「ないわけではない。既に出会っているはずだ。……これ以上は答えん」
クラトスにきっぱりと拒絶されたので私は足を止めた。胸元のネックレスを握りしめて、そして踵を返す。
既に出会っている……?天使の疾患を治す者に?それはどういうことだろう。
ほとんどオゼットの村を出てしまっていたので考えながらロイドたちのところに戻る。というかみんなも追いかけてきていた。
「姉さん!勝手に行くなよ」
「……どうしても聞きたかったことがあったから。それで、ミズホの里へ行くの?」
「ああ。どっちにしろ確かめなきゃいけないしな」
レアバードがあれば随分と移動が楽になるはずだ。ロイドが言うのに私も頷いた。
ミズホの里へは少し距離がある。その間にでもコレットの疾患を治せるものというのについて考えておこう。


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