夢のあとさき
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抑制鉱石のある鉱山はトイズバレー鉱山というらしい。エクスフィアの採掘も過去に行っていたという話だが、シルヴァラントにはエクスフィアの採掘が行える鉱山があると聞いたことがない。クルシスやディザイアンの手によって運ばれているのか、それとも私が知らないだけでシルヴァラントにもあるのか。そんなことを考えながら倒れたガードシステムを見下ろす。
「誰かが侵入した、か……」
そのせいでガードシステムが暴走していて、力づくで押し通ったわけだがその何者かは通れなかったのだろう。この鉱山に侵入しようとするなんてどう考えてもエクスフィアの製造に関わっている者だ。
「リーガル、本当に壊してしまってよかったのか?」
「また侵入者が来るかもしれぬということか?」
「うん」
「問題ないだろう。最深部にはまた別のガードシステムがある」
「そうか。ならいいんだけど」
リーガルがなぜこうも詳しいことを知っているのかも気になるが、彼は多分教えてくれないだろう。私はひとまず納得して抑制鉱石の採掘場に向かうロイドたちの後に続いた。

トイズバレー鉱山は古代のオートメーションシステムをそのまま使っているらしく、無人なのに機械が動いているという不思議な場所だった。リフィルが遺産を使い潰すなどと憤っているのを宥めながら、興味津々に見て回りたそうなのを引っ張りながら仕掛けを解いて進む。
かなり奥まで行ったところで謎の小人に酒を強請られたり、スイッチを踏んで危うく転がる岩に押しつぶされそうになったりしながらようやくたどり着いた採掘場で無事抑制鉱石を手に入れることができた。
「姉さん、これにまじないを刻んでくれないか」
「私?」
手に入れた抑制鉱石を手渡される。ロイドは頷いた。
「姉さんの方がちゃんとできると思うからさ」
「ううん。ロイドがやりなさい。これはあなたが決めたことだよ」
はっきり言ってこの技術の差は私たちの間にはない。私もロイドもドワーフの技術の正統な継承者ではないからだ。
「でも……」
「いいから、早く」
急かすとロイドは道具を取り出して作業を始めた。その間に私にはしたいことがあったのだ。その場から離れて抑制鉱石のしまわれていた木箱の残骸を探る。よく探してみると、もう一つ鉱石があったのを見つけられてほっと息をついた。
「何してんだ、レティちゃん」
「ゼロス」
咄嗟に鉱石を隠してしまったが、よく考えたら隠すことでもなかったな。ゼロスの視線の居心地が悪かったが、あえて目はそらなさいようにする。
「もう一つあるかと思って」
「何に使うんだ?」
「予備だよ。……ここだけの話だけど」
ゼロスが珍しく深く突っ込んで聞いてくるので、仕方なく声を潜める。
「コレットの要の紋はクルシスの輝石をおさえるのに不十分なのかと思って」
「ロイドくんが作ったやつか?それまたどうして。アレのおかげでコレットちゃんは心を取り戻したんだろ?」
「……でも、プロネーマやクラトスの言ってたことが気になるんだ。あくまで私の推測だから、ゼロスは気にしなくていい」
「ふーん。それで、新しいのをあのドワーフに作ってもらうのか?」
「できればね」
ロイドが彫りおわったようなので私は抑制鉱石をしまってロイドの元に戻った。急いでプレセアのもとに戻らなければ。
帰り際にはエクスフィアブローカーのヴァーリとかいう男と出会ったが、リーガルに脅されるとさっさと退散していった。エクスフィアブローカーか、やはりエクスフィアを組織に融通する者は存在するらしい。それを考えると先ほどの男を仕留められなかったのは損害だが仕方がないか。
「私は人を殺めた罪で服役中の囚人だ。軽蔑してくれてかまわん」
ヴァ―リに人殺しの罪人と謗られたリーガルはロイドたちに訊かれて硬い声でそう言った。でもそれで軽蔑することはロイドも、私たちもきっとしないだろう。
彼の罪についての訳は話してくれなかったが、いずれ話す機会があれば、と言ってくれた。それだけで今は十分だ。

私たちはオゼットに戻ったが、そこで待ち構えていたのは教皇騎士団だった。こうも先回りされると何か監視されているような気もするが……考えすぎか。
「痛い……!くぅ……!うう!」
教皇騎士団自体は問題なく追い払えたが、コレットが急に膝をついて痛みに呻いたので慌てて駆け寄った。
「どうしたの!?コレット!」
「コレット!先生、コレットが!」
「熱があるわ。でもこの痛がりようは……?」
リフィルの言う通り、コレットは高熱に侵されていた。だがどこが痛いのだろう。ただの風邪とも思えず、誰か医者を呼ばなくてはと考えたところでプレセアが声をかけてきた。いつのまにいたんだろう。
「……どいて……。私に……任せてください……」
「プレセア?え、ええ……」
プレセアに心当たりがあるのだろうか?彼女の言葉に頷いたリフィルが退いた途端、私は目の前に迫る刃に咄嗟に飛びのいていた。
「え、」
……今、プレセアが斧を?混乱してる間にプレセアはコレットを気絶させてしまう。そして彼女の側に立っているのはプレセアに仕事を依頼していた怪しい人物だった。
「よくやった、プレセア」
その男の合図で現れたのは飛竜で、コレットの体を掴んでしまう。混乱する頭で私は剣を抜いた。
「くそっ!コリン!」
同時にしいなもコリンを仕掛ける。コリンはプレセアを転ばせることはできたが、コレットは取り戻せていない。
「貴様……ッ!」
その横を通り抜けて男に斬りかかるが、飛竜が立ちはだかって男には届かない。翼で薙ぎ払われてしまうと近づくのも困難だった。胴を狙われて間一髪のところで剣で防いだが、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「わしの名はロディル!ディザイアン五聖刃随一の知恵者!再生の神子はいただいていきますぞ」
「ディザイアン!?どうしてテセアラにディザイアンが!コレット―――!」
そのままコレットは攫われていってしまった。くそ、また間に合わなかったのか。だが悔しがっている暇もない。
「レティ、怪我は?」
「あ、ああ。大丈夫……」
リフィルが声をかけてくれるがコレットの方が心配だ。でも、今は気持ちを持ち直さなければ。リーガルに声をかけられて我に返ったロイドがプレセアに抑制鉱石をかけてやっているのを見る。
プレセアはすぐに正気を取り戻し、そして家へと駆けていった。そこにあるのは、彼女の父親の遺体だった。
「私……私、何してたの、いやぁ――――!?」
その悲痛な叫びを聞いて、プレセアを責めることはできない。私は苦い気持ちを飲み込んで手を痛いほどに握った。


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