夢のあとさき
02

イセリアは大陸の一番北にある村だ。
そこから南下していくとトリエット砂漠がある。このあたりが暑いのは火の精霊イフリートの封印があるからだそうだが、コレットも再生の旅を始めたら最初にここを通るんだろうか?
「いや、ほんっと暑い……」
じりじりと灼けるような陽射しに加えて強烈な照り返しに目の前がくらくらする。早いところ水分を補給したほうがよさそうだ。
ときどき出てくる魔物を剣で屠りながら進むと砂漠の花と呼ばれる町が見えてきた。旅を始めたばかりなのにかなり参りつつどうにかその門をくぐる。オアシスのある町だが、町全体が緑に囲まれているわけではない。
「とりあえず、宿を取ろう」
くたくたになりながら宿を探す。幸い町の入り口の近くにあり、部屋も空いているようだった。
「お姉さんは旅業の人?」
カウンターで部屋を取るとそんなふうに声をかけられた。
「そんなところだ。ところで、この町って露店を開くのに許可は必要か?」
「露店?別に大丈夫よ。何か売るの?」
「ちょっとしたアクセサリーとかだ。こんな感じだなのだけど……」
路銀の足しになればと持ってきたアクセサリー類を広げた。あら、と宿の人が声を上げる。
「素敵ねえ。この紋様はなあに?」
「天使言語だよ。ほら、もうすぐ神子様の世界再生が始まるだろう?だからその無事をお祈りする言葉が彫ってあるんだ」
実際は世界再生の旅に反対な私だが、ものを売るなら売れるものを作らなくてはいけない。宿の人はしげしげとアクセサリーを眺めて顔を上げた。
「いいわねえ。私も欲しいわ」
「安くするよ?」
にっこり笑って他のものも広げる。そうすると他の従業員や宿泊客の人も覗き込んできて、その場でわりと売れてしまった。
やはり今シルヴァラントの人は神子にすがるしかないのだろう。やるせない思いになりながら笑顔を貼りつけて売りさばく。
「みんなほしがると思うわ。いい場所紹介するわね」
おかみさんに微笑まれて、好意をありがたく受け取っておく。けれどそれは明日からだ。今日は疲れたので休もう。

翌日は早い時間から露天をひらいて路銀を稼いだ。おかみさんが宣伝してくれていたらしく、あっという間に売り切れてしまったので午後は買い出しと調査にあてることにした。
聞きこみの結果、火の封印――旧トリエット跡はここから西の方角にあるらしい。また砂漠を歩かなきゃいけないのかあとうんざりしながら早めに宿に戻った。
荷物をまとめる前にアクセサリーを作り足しておこうと材料と道具を広げる。ドワーフである親父さん直伝の技術なので材料が安くてもそこそこ見栄えがするようになっている。
「親父さんさまさまだなあ」
削りカスを飛ばしてしみじみと呟いた。

ドワーフである親父さんは私の実の父親ではない。私が五歳のとき、弟のロイドと共に親父さんに拾われたのだ。
どうやら母はディザイアンに追われていたらしい。たぶん、私も原因の一端だろう。
私の手の甲にはエクスフィアが埋め込まれている。私を拾ったときは要の紋をつけていなかったらしいので、ディザイアンは人間にエクスフィアをつけさせて何らかの実験をしているんじゃないだろうかと考えている。まあ、あくまで仮説だ。
母は私とロイドを残して息だえ、父のことはよく覚えていない。微かに過ごした記憶はあるけれど、顔を見ても分からないんじゃないかと思う。私が覚えているのは、異形と化した母が私とロイドを襲ったこと、そして親父さんが私たちを拾った後に母のお墓を作ってくれたことだ。
私がエクスフィアを持っていることは結果オーライだと言える。そうでなけりゃ女一人でいきなり旅に出るなんてできなかったし。
手をかざしてエクスフィアを眺める。要の紋は指輪に刻まれていた。小さい頃は首から下げていたけれど、今はもう指に嵌められる。
ディザイアンのことを調べたら、母のことも分かるのかな。
一番の目的は今生きているコレットのためにこの世界について調べることだ。でも、ついででいいから……分かればいいな。そう思った。


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