夢のあとさき
37

「あと一つ言っておくことがある。ロイド、ユアンは私の協力が欲しいんじゃない。たぶん、私かあなたか――どちらでもいいんだ」
「姉さん、それって……」
仕切り直してロイドに告げる。ロイドは困惑したようにこちらを見た。とりあえず説明しておく。
「ディザイアンに私たちのエクスフィアを狙われたのは覚えてるよね」
「あ、ああ」
「それは私とロイドのエクスフィアがどちらも同じエンジェルス計画とやらで作られた特別なものだったからだ」
「たぶん、そうだな」
「でもね、それ以外に私を狙う理由があると思う?」
ううんとロイドが唸る。それもそうだろう、私たちはイセリアという田舎で育った一般人だ。私たち「だけ」が持ち得るものといえばイセリアで親父さんに拾われる前か、それこそ出生に絡んでくることしかない。
ユアンは女神マーテルの復活を阻止すると言っていたのだ。そんな大それたことになぜ私の協力が必要なのか、そればかりは想像もつかない。
「ドワーフの技術が欲しいとか?」
「それなら親父さんに協力させたほうが確実だろう。というかそうだとしても、それはロイドでも構わないんじゃないかな」
「確かに……」
「私の持っているものは、例えば特定の血統だとしても、ロイドも持っているんだ。わかるね?」
性別が関係すれば話は別だけど、その可能性は低そうだ。神子のように女神の器にしたいのならそうかもしれないが、器を必要とする存在がそう多く存在するとも思えない。
「だからロイド、ユアンには気をつけるように。あなたを狙ってくる可能性も大いにありえるからね」
「わかった。姉さんも気をつけてくれよ」
「少なくともロイドに何も言わずにはいかないから」
ロイドの気持ちを考えていなかったのは私も同じなのだ。残されたものはつらく、苦しい。それを私はコレットが心を失ったことで改めて味あわされた。ロイドも同じだろう。だからあんなふうに怒ったのだ。
イセリアを出て私の世界も、ロイドの世界も広がった。シルヴァラントだけではなくテセアラまで来てしまったくらいだ。
私は一人ではない。その通りだ。一人旅をしていたときとはまるきり違うことをきちんと理解していなかったのかもしれない。それならロイドのほうが長く仲間と旅をしているぶん先輩だな、と苦笑してしまった。
話を終えた私たちはみんなの元へ戻る。コレットが心配そうに見上げてきたので、大丈夫だよと伝えておいた。
「レティ、ホントにどこか行かないでね」
「そうだね、勝手には行かないよ。コレット」
結局、ロイドには私の――天使化のことは伝えられなかった。ずるいなと思う。
でも、要の紋さえあればなんとかなることはコレットの一件で判明したのだ。テセアラにもエクスフィアをつけている人がいるわけだし取り返しのつかないことにはならないだろう。そう自分をごまかすことにした。

野宿を終えて、私たちはメルトキオに向かった。しいなの仲間が海を渡る手助けをしてくれるかもしれないからだ。しかし指名手配になっている我々神子一行は当然正門からは入れない。
というか普通に話しかけたのだが、門番の騎士は「まだこんなところにいたのですか」とゼロスに苦い顔をしたくらいだから通してくれてもいいのにと思ってしまう。テセアラのマナの神子は世界再生のための旅をする必要もないし、どういう立場なんだろうか。少なくとも騎士にこう言われれくらいは民に慕われているらしいけど。
件の神子ことゼロスは正門以外にも入り口を知っているらしく、私たちを下水道へと案内してくれた。曰く、夜に門が閉まってるときはここから家に戻っていたとか。呆れてしまう。
「どうして夜までに帰らないんですか?」
コレットが心底不思議そうに尋ねるので頭を抱えたくなった。う、うーん、やはり相応の教育は必要なのでは……。
「……んー、教えてほしければ今晩ご教授するけれど」
という返答をするゼロスになんというか、見境ないなあと思う。確かに最初ナンパしてたのはコレットのことだけどね。本気じゃないとは思うけど。
しいなはユニコーンに会った時の反応もそうだったけど、割と潔癖らしく肩をいからせて怒っていた。「どうしたんだろう、しいな」とやっぱり不思議そうなコレットにリフィルが「大人の話よ」とさらりと流していた。


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