ラーセオンの魔術師
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さて、尋ねていったパルマコスタの総督府でミトスを預かってもらうさいに総督のニールという人から教えられたのは、以前に爆破したパルマコスタの人間牧場跡にディザイアンがうろついているという情報だった。ていうか爆破したのか、人間牧場。正しいといえば正しいけど。
ロディルがいると思われる絶海牧場で魔導砲建設も行われているらしいという話も聞き、とりあえずは手近なパルマコスタの牧場跡へ行くことになった。
そこで待ち受けていたのはディザイアンではなくレネゲードで、かつ大いなる実りを復活させるために共闘を持ちかけられたのだけど――まさか、ユアンが本当にレネゲードだったとは。
みんなはやはり世界の仕組みなどは知らないらしくそこに驚いているようだったが、私はユアンの顔をまじまじと見てしまった。こんな形で協力関係を結ぶことにはなるとは思っていなかった。正直まだ苦手意識は拭えないけど、もうクラトスとも手を組んだ後だ。ためらうのも今さらという話だろう。
「一つ確認ですが」
ユアンおおまかな説明を終えた後に尋ねてみる。「なんだ」と促されて言葉を続けた。
「世界を一つに統合する前に大いなる実りを発芽させても問題はないのですね?」
「……ああ。世界の統合はマーテル消滅の後でも問題はない」
あくまで、精霊の守護は大いなる実りが発芽しないようにするためのものということか。発芽すれば守護がなくとも大樹は安定するということだろう。
「理解しました」
ならば問題はない。大樹に取りこまれたマーテルさえ消滅すれば、ミトス・ユグドラシルがこの世界をそのままにする理由はないだろうから、邪魔が入らないとさえ言える。


私たちはそのままレネゲードのボータに案内されて絶海牧場へと行くことになった。他の面子はレアバードを持っているので、今回は私もレアバードを借りることにする。今はしいながいるから燃料の供給が可能だが、もし彼らと別行動するとなるとレアバードが使えないのはちょっと残念だ。かなり便利だからね、これ。生身で飛ぶのよりは快適だ。
「おまえたち、行く先々の牧場を破壊しているようだが、魔導炉は大いなる実りの発芽に欠かせないのだ。ここは破壊するなよ」
そうボータに釘を刺されてから私たちは魔導炉に用がある彼らと別れて管制室を目指すことになった。魔導砲の無力化が最優先ということだ。
途中、ディザイアンたちに見つからないようにしながら――見つかってしまったら迅速に倒しながら牧場内を進んでいく。私は主に後方支援だ。味方を巻き込まないように気をつけるのにも慣れてきた。
「……レティシア」
何度目かのエンカウントのあと、ゼロスが静かに私の名前を呼んだ。みんなから数歩下がったところで言葉を交わす。
「どうかしました?」
「あんた、……そんなんでよくついてくるって言ったよな」
いくらか刺々しい口調だった。観察していると、ゼロスは女性陣には基本的に優しい。けれど今のゼロスは出会ったばっかりのときによく似ていて、私はなんとなく懐かしくなった。私にとってはゼロスはこっちのイメージが強い。
「足手まといになっているようには思いませんが?」
「そりゃ、足手まといにはなってないけどよ。トドメ、刺してないだろ」
こんなすぐにバレるとは。そんなにわかりやすかっただろうか。
ゼロスの言う通り、私は一度もトドメを刺していない。魔物や動物なら殺めるのに抵抗があっても躊躇うことはなかったが、ひとが相手だと怖気ついてしまう。
なまじ器用だからか殺さずとも無力化はできる。ゼロスが足手まといではないと言ったのはそのおかげだろう。
でも――ひとを傷つけるのに抵抗があるならば、なぜついてきたのか。そのことをゼロスは咎めていた。いや、違うかな。
「……心配をかけたならすみません」
「心配、なんかじゃ……いや、あるか」
私への気遣いなのかもしれない。そう思ったのだが、図星だったようだ。ちょっとだけ自惚れてしまいそうだった。
「でも、私が自分で手を出したことです。何かできるならしなくてはならないと思って」
「プレセアちゃんのエクスフィアのことか?」
「ええ」
「ふうん。案外律儀なんだな」
「心外ですね」
失礼な、と思ったけどゼロスからしてみれば逃げた私はずるかったのかもしれない。それこそ、私がここにいること――ユグドラシルへの叛意を持ってることでチャラにしてほしいんだけど。
「ま、今は俺さまがいるからいいけどよ」
「自分の身は自分で守りますよ。防御は得意ですから」
「……そう言うよな、あんたは」
ゼロスは呆れたようにため息をついた。失敬な。私は誰かに迷惑をかける趣味はない。
ただ、救えるひとを見殺しにはできないと思う。それはプレセアだったり、しいなだったり、――ゼロスだったりするのだ。
「さ、急ぎましょう」
ゼロスから視線が注がれるのに気がつかないふりをする。管制室まではもう少しかかりそうだった。


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