夢のあとさき
13

どうやら私は死ななかったらしい。
目を覚まして真っ先にそう思った。場所は――牢屋ではない。清潔そうな部屋だ。立ち上がろうとしたが、節々が痛んで私は寝台に舞い戻った。
「いっっつ……」
それでも包帯を緩めると火傷の傷跡は治っている。誰か治癒術をかけてくれたのだろうか?ユアンの仕業か?
ユアンといえば、あの男はなぜ私の行く先々に現れるのだろう。居場所を把握されているようで気分が悪い。
私に死んでもらっては困る、と言っていたがディザイアンとは別の目的を持っているのか?この手の甲のエクスフィアに関してなのか、それとも。
考えてもわからない。とりあえず完治するまでは寝ていよう。

何度か目を覚ましたが、記憶はあまりない。何度目かで私の包帯を変えているユアンに気がついた。
「……あんたか」
「命の恩人への言い草とは思えないな」
「勝手に助けたんだろう。包帯変えるのか?」
「もう平気だろう。解いている」
くるくると包帯を巻くユアンに私はそうかと言って着ている簡素な服の足首を捲り上げた。そこの包帯も外す。あとは背中を覆うものも外すかと上を脱ぐとユアンは少し動揺したようだった。
「若い娘が……」
「若い娘?あんたたちにとってはただの劣悪種だろう」
胸を締め付けていた包帯を外す。背中のミミズ腫れは指で辿るとまだ皮膚が盛り上がっていたが、痛みはそれほどなかった。
ユアンは何か言いたそうにこちらを見ていた。服を着なおして包帯を渡すとじろじろと顔を見られる。
「……そのような思い込みは直した方がいい」
「ディザイアンは劣悪種の女でも構わず襲うと?」
「その通りだ」
肩を押されて寝台に倒れこんでしまう。気づいたらユアンに押し倒されていた。
「あんたもか?女には不自由しなさそうに見えるけど」
私はそんなに美人じゃない――美形のエルフの血を引くハーフエルフに比べての話だ――し、スタイルがいいわけじゃない。ユアンのメリットがわからないなと思いつつ男を見上げる。
「私は違う」
「説得力がない。退いて」
「……」
ユアンは迷ったようだったが、結局退かなかった。
まあ、これで借りを返したと思ったらいいかな。私はそう逃避して諦めることにした。

ユアンに抱かれた後も、私はずっと同じ部屋に留め置かれていた。ちなみに私は一週間ほど生死の境をさまよい、さらに一週間寝たり起きたりしていたらしい。ここにきてすでに一月は過ぎてるんじゃないか。
パルマコスタの人間牧場で奪われた装備はなぜか私のいる部屋に運ばれていて、私はアクセサリーを作ったり剣の素振りをしたりして過ごした。部屋のドアはどう叩いても開かないし、ユアンの持ってきた本には再生の神子について書かれていたのでそれを読んだりもしてた。今出て行くのは難しい気がする。
「でも、時間がないんだよね」
剣の素振りを終えて息をつく。随分と長い間旅をしてきた気がする。コレットの旅立ちは間も無くではないか。ここには窓がないから見えないが、救いの塔が外に建っているかもしれない。
今からイセリアに戻って間に合うのか?神子と行き違いになったらどうしよう。コレットたちは私のように調べ物をして回るわけではないので、あっという間に封印を回ってしまうだろう。そしたら私はコレットの最後にすら間に合わないかもしれない。いや、コレットがすべての封印を無事に解放できるかどうか……。
不安になる。ユアンがまた来たときに、どうにか交渉しないといけない。



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