夢のあとさき
12

建物を調べると通気孔らしきものを発見し、私はそこから侵入した。人がいない場所に降り立って色々ある機械を見回す。見取り図が欲しいけど、多分無理だなこれは。
道を記憶しつつ、中心部へと向かっていく。ディザイアンに見つかっても数人だったので特に問題はなかった。ゴウンゴウンと何かが動いている音がして窓のようなものを覗くとそこにはたくさんの箱が流れていた。
「エクスフィア……?」
顔を上げる。そのさらに上……エクスフィアが作られている場所には、人々が流れていて、
「……え?」
思考が停止する。人が、エクスフィアに、されているのか?その人たちはどうなるんだ?――死ぬのか?
培養体の意味がわかったと冷静な自分が囁く。きっとそうだ。
エクスフィアは、詳しい原理はわからないが――人の体に埋め込まれることで作られるのだ。そしてエクスフィアができたとき、人は死ぬ。
「うそだ……」
後ずさる。ここがディザイアンの基地だということは忘れてしまっていた。
「うそだ……!」
ひどい。なぜこんなことができるのか。こんなことが許されるのか!私は叫びだしたくなった。
その場でぐずぐずしていたせいか、ディザイアンに見つかってしまう。それでも冷静さは取り戻せなかった。
「こんな、こんな……!」
がむしゃらに剣を振るう。八つ当たりに近かった。型も何もあったものじゃなかっただろう。気づけばディザイアンに囲まれていて、そして捕らえられていた。
「よくもまあ、こんな暴れてくれたなァ?この劣悪種が!」
怒鳴ってくるのはリーダー格のマグニスという男か。それもどうでもよかった。
私は……どうしたらよかったのだろう。
「マグニス様!この娘、エクスフィアをつけています!」
「なにィ?認証しろ!」
「はっ!」
やり取りが頭上で進む。認証とはなんだろう。ぼんやり思った。
「人間名、レティシア・アーヴィング……」
「まさか、エンジェルス計画のか!?」
「ハッハァ、これは手柄だなァ!」
マグニスが私の髪を掴む。顔を上げさせられたけど、何も反応できなかった。

しばらく経って湧いてきたのは怒りだった。
こんなことが許せるものか。ディザイアンは徹底的に叩かなきゃいけない。でも、可能かどうかは分からないし、それにエクスフィアを製造している理由もわからない。もしディザイアン全員がつけるためだとしても足りてるんじゃないのか?そして、あの男が言っていたエンジェルス計画とはなんなのだろう。
牢に入れられてしまったが、トリエットの時のように逃げ出せないと決まったわけじゃない。気合いを入れ直した私だったが、しばらくは脱走のチャンスも見つからなかった。

しかしやがてチャンスは巡ってくる。どうやら私は別の人間牧場に送られるようだった。同行するのはディザイアン数人だけ。これなら逃げられる可能性が高い。
「せえいっ!」
剣はないが、剣がないだけで戦えないわけじゃない。私は回し蹴りでディザイアンを昏倒させ、彼らから武器を奪い、手枷をつけられたまま全員を逃さず倒した。
「ぅ、はぁ……くっ」
でもこちらも負傷してしまった。魔術で腕をひどく火傷したし、切り傷で出血もある。鞭で叩かれた背中はじんじんと痛い。
ディザイアンの荷物からグミを奪おうかと思ったが、ここに留まる方が危険だ。逃げよう。そう思って走るが、しばらくたたないうちに転倒してしまう。
「くそ……っ」
逃げきれるのか。不安になる。どこの町に行ったとしたも、ディザイアンから逃げ出したという人間が受け入れてもらえるのか。
「無茶をする娘だ」
もはや聞き慣れた声が降ってきて私は身を硬くした。振り返ると思った通りの彼がいる。
「ひどい怪我だな」
「……」
「助けて欲しいと請わないのか」
「……」
「ここで死んだら何が成せるというのだ?」
「あんたも……ディザイアンだろう。牧場のものに、みつかっても、おなじことだ」
失血のせいか目の前がチカチカしてきた。唇が震えて、声が紡げなくなってくる。ユアンは呆れたようにため息をついた。
「ここで死んでもらっては困るのだがな」
なぜ、と聞きたかった。
その前に私は力尽きていた。


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