夢のあとさき
08

ルインへ着くと行商人は約束通り祭司を私に紹介してくれた。この祭司がマナの守護塔の管理人なのだそうだ。
「熱心な方だ。マーテル様もお喜びだろう」
ニコニコと鍵を貸してくれたので、ルインで少し休んでからマナの守護塔に向かうことにする。

マナの守護塔はルインの北にある。昔はマーテル教会の聖堂だったが今は魔物が住み着いて閉鎖されている建物だ。
「でかい……」
流石に救いの塔とまではいかないが、高い塔を見上げてため息をつく。どんな技術で作られているんだろう、これ。失われた技術に思いを馳せながら私はマナの守護塔に入った。
話通り塔の中は魔物が多かったがどうにか追い払って一息つく。これだけでも時間がかかってしまった。グミをほおばりながら歩いて回ると石板が目に入る。
これは旧トリエット跡にあったものと同じだろう。神子を認証する石板。つまりこの先は私には立ち入れないことになる。
けれど幸いと言うべきか、このエリアだけでも書物がたくさん並んでいた。ホーリィボトルを使って魔物避けをすると一冊取って読みはじめる。
天使言語で書かれたもの、そうでないもの、沢山の本が収められていた。もったいない、これを全部研究機関にでも持っていけばいいのに。そういえばパルマコスタには学問所があるんだっけ。
「なるほどなあ」
読みながら持ってきた紙に要点をまとめる。そうしていると日が暮れて、そして次の日になっていた。適度に魔物を駆逐しながら書物を読んでいるとあっという間に一週間ほどが過ぎていた。

そろそろ物資も尽きてきたので一度ルインに戻ることにする。ここの書物は興味深いが、800年前の世界再生の資料がほとんどだった。私が知りたいのはそれより前の話、というかもっと根本的なことなんだけど。
ルインに戻ると私を待っていたという行商人に声をかけられた。アクセサリーの売れ行きが良かったようだ。
「ずっとマナの守護塔にいたのかい?」
「そうだ。興味深いものが多くてね」
「君にまた護衛を頼もうと思ってたんだが……」
話を聞くと往復で一週間ほどを予定しているらしい。この行商人には世話になったので了承することにした。本ばっかり読んでいても息がつまるし。
一度鍵を返してからハイマに向かう。行商人にマナの守護塔の様子を根掘り葉掘り聞かれたので色々と答えてやった。
「随分と詳しいんだな。君、出身はどこだい?」
「イセリアだ」
「イセリアか!では神子様にお会いしたこともあるのかな」
「ある。私は神子の役に立ちたくて旅業に出たんだ」
「なるほどなあ」
行商人は納得したように頷いた。嘘は言ってない。
「イセリアはマーテル教の教育に熱心なんだな」
「そうでもない。でも最近はエルフの教師が来たから。彼女は博識なんだ」
「エルフの教師か。さぞすごいんだろうな」
「すごいぞ……」
熱を入れて語るリフィルを思い出して私は思わず遠い目をしてしまったのだった。


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