夢のあとさき番外編
王城からの招待状-3

※分岐があります

「びっくりしたよ。ロイドがレティを抱っこしてるんだもん」
パーティーが終わったあと、ゼロスの屋敷に戻ってきて開口一番にそう言ったのはジーニアスだった。私は瞬いて「ああ、」と声を上げる。
「見てたんだ」
「あんなの目立つに決まってるじゃない」
「そう?」
「あたしにも見えたよ」
しいながジーニアスの言葉に頷く。コレットは気づいてなかったようで首を傾げていた。
「何かあったの?」
「姉さんが足挫いたから俺が運んだだけだよ」
「そうそう。ヒールなんて履くもんじゃないね」
「そうだったんだ。レティ、足はだいじょぶ?」
「もう平気だよ」
ちなみに足については帰る前にリフィルにさっと治癒してもらったので違和感が少し残ってるくらいだ。こういう時エクスフィアをつけていてよかったと思う。
「せっかくのパーティーだったのに残念だったね」
「あー、そうだね」
コレットは私がパーティーの間じゅう歩き回れなかったことを言っているのだろうが、あまり楽しいものではなかったので個人的にはもう十分だった。ソファで休んでても何も言われない言い訳ができてよかったとすら思う。
そろそろ夜も遅いので、着替えたあとは解散してあとは寝るだけ、ということになった。あんなに着るのに苦労して、化粧にも時間をかけたのに脱ぐのはあっという間だ。しかしようやく訪れた解放感にもはや安堵しかない。
「はぁ〜」
ゼロスの屋敷のふかふかなベッドに倒れこむ。こんな上等なベッドで寝られるなんて貴族は悪いことばかりではないのかもしれない。
しかし、コルセットというのはやはり好かないなと思う。ものを食べてないせいでだんだんと空腹を自覚してしまってきたし。
ぐう、と鳴る腹を抑えて立ち上がる。この時間に人の家の台所を漁るわけにもいかないし、外で何か食べてこようかな。メルトキオだから酒場とかやってるんじゃないだろうか。
シャツの上に上着を着て部屋を出る。私たちが泊まっている二階は静かだったが、階下に降りると人の話し声が聞こえてきた。
誰だろう、と思ってサロンを覗くと、ゼロスとリーガルがソファに腰掛けて何やら話し込んでいた。
「あれ、レティちゃん。どっか行くの?」
私に気づいたゼロスが手の中のグラスを揺らしながら聞いてくる。それより私は彼らの前のテーブルに置いてある軽食に目が釘付けだった。
「いや、空腹で眠れなくて。食べるものもらってもいい?」
「いーぜー。こっちきて一杯やろうや」
誘われるがままにふらふらとゼロスの隣に腰を下ろす。お酒はどうでもいいけどとにかく何か食べたい。思ったよりもお腹が空いていたみたいだ。
「何飲む?」
「水」
「水かー」
ゼロスに訊かれたのに適当に答えて早速サンドイッチに手を伸ばす。リーガルがそっと皿をこっちに寄せてくれたのがありがたいけど、微笑ましいものを見る目で見ないでほしい。
「女性はパーティーでは大変だろう」
そう言ってくるのでたぶん、コルセットを着けてる女性がパーティーで食べられないというのは普通のことなのだろう。だったらコルセットを廃止してほしい。
「二人は食べなかったの?」
「んー、あんまりな。ああいうところで飯ってまず食わねえし」
「そうだな。今回の料理は主にロイドたちのために準備されたものだろう」
「ふーん。毒味とかしてないからってこと?」
「ひゃひゃひゃ」
ゼロスが適当に笑ってごまかすのでそういうことだろう。難儀だなあと思っているとメイドさんが新しいご飯を持ってきてくれた。皿が三段になっている謎のスタイルだ。ついでにティーポットから紅茶も淹れてくれる。お礼を言うとにこりと微笑まれた。
「そういやレティちゃん、めんどくさいのに絡まれてたな」
「ん?」
サンドイッチでパサついた口内を紅茶で潤してるとゼロスに言われたので首をかしげた。が、すぐに思い当たる。
「ああ、あの男か。ロイドが来てくれて助かった」
私が足を挫く原因になった男だ。ゼロスの知り合いだったのだろうか。
「俺さまが華麗に助けようとしたんだけどよ〜、ロイドくんの方が早かったっていうか」
「んむ?そうだったんだ」
「しつこく言い寄られたのだろう?何か不快なことは言われなかったか」
剣呑な目でリーガルが言ってくる。なんだ、そんな悪名高い男だったのか?訊いてみるとどうやらその通りらしい。身分の低い娘をひっかけるのが趣味とはまた。
「特に何もされなかったよ。されても天使術で反撃しただろうしね」
「……たくましいねぇ」
「次からは我々も気をつけよう」
「もう次なんてなくていいよ。パーティーとやらは懲り懲りだ」
「ええ〜!?レティちゃん似合ってたのに」
「そうかな。でも面倒だしさ」
言いながら空になったカップに今度は自分で紅茶を注ぐとゼロスがなにやら瓶を差し出してきた。お酒らしいが、さて。
「紅茶に混ぜても結構イケるぜ。レティちゃん酒飲めないわけじゃないでしょ?」
「飲んだことないけど……」
飲酒可能な年齢ではあるが、家には親父さんとっておきのお酒ばかりで手をつけるのは憚られたし旅に出てる間は飲もうという発想がまずなかった。というわけで未知数である。せっかくだし、とゼロスに注いでもらった。
「なんか体がポカポカするね」
「だろ〜?」
「レティ。酔いそうなら飲み切る必要はないのだぞ」

>>「そうだね。なんかもう酔っちゃったかも」
>>「んー、おいしいし多分平気だよ」


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