夢のあとさき番外編
王城からの招待状-2

とまあ、そんな一幕があったのち、他の女性陣も続々と着替えを終えてホールに到着しはじめた。
プレセアはゴシックな感じのドレス、コレットはそれと対照的に清楚なイメージの白いワンピースドレス。どちらも二人によく似あっている。リフィルはドレスというか研究者の制服のような、でもきちんとした礼服を着ていてゼロスがやたら喜んでいた。しいなは私よりも露出度高めのセクシーなドレスだったのでほらみろ、という気持ちになる。私の格好はなにもおかしくない。
「ちょっと緊張してきちゃったね〜」
ほわほわしながらコレットが腰のリボンをいじって呟く。声の調子ではわからないが、本当に緊張しているようだった。
「マナーとか分からないもんね。今更だけど、本当に行っていいのかなボクたち」
「呼んだのは向こうだから気にしなくていいよ」
「レティ、なんか呑気だね」
ジーニアスに恨めしそうに見られてしまう。私は肩をすくめた。
「だってゼロスだってリーガルだって、あとクラトスも貴族だよ。今さら貴族がいる場所に行くのなんて別に緊張しないし」
「うーん、そう言われると……って、ええっ!?」
納得してくれたか、と思ったがジーニアスは驚いた顔で私を見上げてきた。
「クラトスさん、貴族だったの!?」
「あ、じゃあレティも半分貴族だねぇ」
「そうか、私とロイドを足したらパーティーの四割は貴族ってことになるね」
「それはどうでもいいんだけど!」
コレットがにこにこと言うのに頷いていたらなぜかジーニアスが慌てていた。リフィルに目をやると呆れたような顔をされる。
「うん?クラトスは昔テセアラの騎士団長で、貴族だったんじゃないの?」
「そうなのクラトスさん?」
「……その通りだが」
クラトスがやたらと重苦しく頷くので間違ってなかったらしい。
「ほら」
「ほら、ってレティなんで知ってるのさ!なんかよくわからないこと知ってるよねいつも!」
「よくわからないって……王城の書庫で読んだ本に書いてあったから」
そうか、みんなはあの本読んでなかったのか。まあ読んでいたとしてもあの時探していた永続天使性結晶症とは関係なかったから見つけなかった可能性の方が高そうだ。
「でも貴族っていうならクラトスの方の姓を名乗ったほうがいいのかな」
「アウリオンさん?」
「うん、レティシア・アウリオン」
「なんかかっこいいねぇ」
「あっはは、今のクラトスには爵位もなんもないけどね!」
そうコレットと笑いあっているとクラトスが天を仰いでいた。
「……レティ、こういうところはロイドそーっくりなんだよね」
「本当。クラトス、あなたは悪くないわよ」
「……フ」
「喜んでるんじゃねーのこのおっさん」
「気持ちは分からないでもないな」
「ロイドさんがいなくて……よかったです」
……なんか言われてるけど気にしないでおこう。

ロイドは戻って来ず直接パーティーに向かうということで、私たちも王城へと向かうことになった。会場は思ったよりもこぢんまりとしていて、身内向けのパーティーだとゼロスが言っていたことを思い出した。
「わあ、美味しそうなお料理がいっぱい!」
立食形式で並べられている食事にコレットが目を輝かせている。ゼロスは私たちを代表して国王に挨拶に行ってくれていて、リーガルも貴族だからそれに着いて行った。ジーニアスは緊張しながらもプレセアと一緒に行動できているようだ。しいなはさっさと壁の花を決め込み、リフィルも似たようなもので物珍しげにあたりを見回しながらも壁際に佇んでいた。
「ねえレティ、食べてもいいのかな?」
「いいんじゃない?もう始まってるみたいだし」
実際料理や飲み物を手にとっている人もちらほらいる。コレットは「わぁ!」と歓声を上げながら皿に料理を盛り始めた。
「レティは食べないの?」
「あとで食べるよ。それよりロイド、まだ来てないのかな」
正直このコルセットで腹を締め付けられているせいでろくに食事ができる気がしない。コレットはコルセットを着けていないのだろうか。着けなくても細いから問題ない気もする。
「そうだねぇ、ロイドどこだろう?」
「ちょっと聞いてくるね」
「はぁい」
リフィルが近くにいるのを確認してその場を離れる。まあ、コレットは以前天使スピリチュアに間違えられていたりしていたので、何が面倒なことになってもそれで乗り切れられるだろう。
それにしてもロイドが見当たらない。聞いてくると言ったものの、誰に聞こうか迷っていると声をかけられた。
「やあ君、誰かを探してるのかい?」
貴族の男性だろうか。にこにこと笑顔を向けてくるのを無視するわけにもいかずとりあえず返事をしておく。
「ああ。弟を探している」
「……、弟くんか。よければ私も一緒に探そうか?」
「いや、結構だ」
なんかお節介を言い出したので断った。ロイドが幼い子どもなら頼んだかもしれないが、別にそんな切羽詰まっているわけではないし。
「そう遠慮しないで。美しい君の役に立たせてくれないかな」
「……?」
なんの下心を持っているのだろうと怪しんでしまったのも仕方ないだろう。私が姫を助けた一員だと知っているなら姫への繋ぎか、ゼロスと繋がりを持ちたいのか。どちらにせよ私は役に立てないので放っておいてほしい。
「別に手伝ってもらうほどのことではない」
「おや、急いでいないのかい?」
「まあ……」
「ならもう少し話をさせてもらっても?」
しまった、急いでると言った方が良かったか。なんかもうめんどくさくなって逃げ出そうかなと思い始めた。うん、そうしよう。そう思って踵を返した途端、足首に痛みが走る。
「……っ!」
慣れないヒールのせいで変な捻り方をしたようだ。しかも方向転換をしようとしてたため踏ん張れなくて体が傾ぐ。転ぶ、と反射的に受け身を取ろうとした瞬間誰かに抱きとめられたのがわかった。
「姉さん!」
知ってる声に顔を上げる。いつもと違う服装のロイドが私を支えてくれていた。
「ロイド!ありがとう、助かった」
「大丈夫か?」
「あー、うん」
捻ったものの歩けないというほどではない。私が頷くとロイドは安心したようににこりと笑った。
「よかった。せっかくきれいな格好してるんだから、転んだらもったいないもんな」
「そうだね。ロイドもよく似合ってるよ。赤もいいけど白もかっこいいね」
「へへ、そうかな。ありがと!」
ロイドの格好を改めてじっくり眺めて言うと照れ臭そうにお礼を言われる。正装のロイドは着せられている感もあまりなく、凛々しくてよく似合っていた。
ロイドはたまにモテたいとかゼロスに言っているけど十分モテるくらいかっこいいと思うんだけどな。姉の贔屓目だろうか。
「で、えーと?」
私がすっかり存在を忘れていた男性にロイドが視線をやる。彼が何か言う前に私はロイドの腕をとった。これ以上この人と関わり合いになりたくない。
「ロイド、それよりちょっとソファまで連れてってくれる?やっぱり足くじいたみたいだ」
「えっ、大丈夫かよ姉さん。おんぶするか?」
「それはさすがに……、ってうわ!?」
この格好じゃ無理だろう、と言いかけたところでロイドに急に抱きかかえられて声をあげてしまった。思わず首にしがみつくとロイドはいたずらっぽく笑ってくる。
「これならいいだろ?あそこのソファでいいか?」
「じゃあお願い。重くない?」
「ヘーキヘーキ。俺エクスフィアつけてるんだぜ」
「そう言えばそうだった」
ぽかんとしている男性を横目にロイドにソファまで運んでもらう。本当は肩を貸してもらうつもりだったんだけど、まあこれはこれでいいか。
ソファに降ろされてスカートを整えていると、ロイドも隣に座ってくる。
「なあ、さっきのやつなんだったんだ?」
「え?ああ、知らない人だよ。ゼロスとか姫に用があったんじゃない?」
「なんでゼロスとか姫に用があったら姉さんに話しかけるんだ?」
「だって私たちゼロスと一緒に姫を助けたでしょう。知り合ったら紹介してもらえると思ったんじゃないの?」
「本人がすぐそこにいるのに?変なの」
たしかに変だが、貴族というのはそういうものだろう。ロイドは納得していなさそうだったがすぐに興味を無くしたようだった。
「それよりロイド、ご飯食べてきたら?私は平気だから」
「んー、じゃあそうしようかな。姉さんはご飯食べたのか?」
「まあね」
ロイドの言葉に曖昧に頷く。ロイドは「気をつけてくれよ」と言い残して食事の置いてあるテーブルに向かって行った。


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