夢のあとさき
07

噂通り北上すると魔物はだいぶ強くて、橋を渡るのにだいぶ時間がかかってしまった。何人かでパーティを組めれば別だったろうけど、やはり一人だとつらい。野営もそろそろ体がもたないなと思ったあたりで次の町にたどりつけた。
ハイマは冒険者の町と呼ばれているらしい。それにしてはあまり栄えていないけど、このご時世冒険者も大していないんだろうか。とにかく疲れていた私は丸一日寝て過ごした。
「お腹が空いたぁ……」
空腹で目が覚めて私はよろよろとベッドから起き上がった。高かったけど風呂に入り、さっぱりしてから宿でご飯を食べさせてもらう。
「お姉さんは旅業の人かしら」
宿で働いている女性に声をかけられて頷く。そしてトリエットでしたのと同じようにアクセサリーを見せてこれを売る許可はいるかと尋ねた。
「そうねえ、許可はいらないわ。でも、ここってあんまり冒険者以外のお客さんこないのよね」
「この近くだとやっぱりルインがいいかな」
「ええ、そうでしょうね。ルインと言えば行商人が往復しているから護衛を募っていたわ。お姉さんが腕に自信があるなら聞いてみたら?」
「そうする。ありがとう」
路銀が残り少ないのが分かったのかそう紹介されて私は頷いた。ありがたいことだ。

ご飯を食べ終わって町の入り口の方へ行くと宿の女性が言っていた行商人が見つかった。あと数日後にここを出るらしい。護衛なら引き受けると言うと胡乱気な目をされる。
「といってもねえ、お嬢さんの腕の方はどうなんだい」
「剣なら扱える。あんたもやるだろう、なんなら見せるが」
行商人と言ってもかなりガタイのいい男だ。そう言うと行商人は目を光らせて荷物を置いた。
一度手合わせをすると向こうもこちらの実力を理解してくれたのか一も二もなく依頼してくれた。出発の日時を聞いて契約を結ぶ。
「お嬢さんは一人で旅をしているのかい?そりゃあ強いわけだ」
「まあね。ところであんた、マナの守護塔について知ってるか」
「そりゃ知ってるさ」
聞いてみるとマナの守護塔は今は封鎖されているらしい。が、その管理者と知り合いなのだそうだ。旅業の人間だと思い込んでいる行商人は「お嬢さんの腕なら平気だろう」と管理人に鍵を借りる約束をしてくれた。そのぶん護衛代は引かれたけど。
「ありがたい。よろしく頼む」
「こちらこそ」
握手をしてその日は行商人と別れた。

行商に出るまでの数日はアクセサリーの作成に費やした。まだ残っているが、トリエットのようならまたすぐに売り切れるかもしれない。もしもの時のために路銀は多く持っていた方がいいかもしれないと思い返した私は部屋にこもってせっせと紋様を彫っていた。
同じ宿に泊まっている行商人と話をすると彼にいくつか買い取ってもらえることになった。「お嬢さん、本当に熱心なんだなあ」と感心されたが苦い気持ちは表に出さないでおく。
家を出てからだいぶ経ったように思える。コレットの旅立ちの日には帰れるように情報を集めなくてはいけない。焦燥が胸に募った。


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