※遊廓パロ



大門をくぐるとそこは別世界。今宵も客引きをする多くの遊女たちが見世で華やかな雰囲気を醸し出している。どの見世も豪華絢爛、上玉な遊女たちが控えており、それはそれぞれの妓楼の権勢を物語っていた。そんな妓楼ばかりであるから花魁を抱えるところも少なくない。遊女たちはそんな桃源郷に暫しの夢を見に来る男たちを快楽の世界へと誘う。




「もう戻るの?」

「うん。今日はお客を取る気分じゃなくて」

「楼主に怒られるわよ。御茶挽きになるつもりかって」

「ふふ…そうだね」


渇いた笑いを残し見世を立ち去る遊女が一人。アイチと呼ばれるその遊女は部屋に戻り静かに襖を閉めた。

はあ、これが遊女の仕事だと分かっているけどどうしても慣れない。客を引き手練手管を使い、媚びへつらって馴染をつくる。多くの花代を頂く対価として悦の世界へと誘う。仕事だと割りきってしまえば楽だけどそうもいかないのが現実。僕はそこそこ馴染客もいて安定しているからまだマシな方かもしれない。それでもやはり嫌い、というか苦手な客もいる訳で気分の乗らない日だってある。その中には、本気で僕を愛してるという客もいて今までに持ち込まれた身請けの話も少なくない。でも、全てを断ってきた。何れほど多くの花を積まれても、一生その旦那の元で暮らしたいと思える人がいなかったから。そう、ただ一人を除いては。


今日も来てくれないのかな、と近頃登楼していない人物に想いを馳せ、窓から月を眺める。今宵の月は満月で、夜空に瞬く星々の中でも一際存在感を放っている。蝋燭には火を灯さず、禿たちも下げさせ部屋にはただ一人の遊女と射し込んでくる月光のみ。客を取るのは勿論のこと、禿と一緒にいることさえ今は煩わしい。あの人が来てくれないのなら尚更一人になりたかった。
会いたい。たかが遊女が一人の客にこんな感情を抱くのは許されないのかもしれないけど、やっぱり僕は櫂くんが恋しい。遊女としてではなく僕個人として好きになってしまったから厄介なんだよねとアイチは思案していた。



「何、感傷に浸った顔してるんだよ」


声のした襖の方に目を遣るとぼんやりと人の影が見えた。はっきりと姿は見えないが今一番望んでいた人物が、そこに。

「櫂くん!」

「櫂様、だろ。これでも一応上客なんだぜ」

櫂はわざとらしい笑みを浮かべるが直ぐに冗談だよ、気を遣うなと優しく声を掛ける。窓辺に座っているアイチの元へ歩み寄り、自身も隣に腰をおろす。


「寂しかったか?」

「………うん」

「素直でよろしい」

「でも、どうしてここに…」

「見世にいなかったから番頭に訊いて、無理矢理通してもらったんだ。誰かさんが寂しがってるだろうなと思ってな」


尤もなことを言われアイチの頬には朱が差した。櫂の手はそんなアイチの頬に伸び、優しく愛撫する。腰に手を回され帯を解かれそうになるが、アイチはあまりにも意識し過ぎて急に羞恥の念に駆られる。


「…!灯りでも点けようか!暗くてごめんね」

「いいだろ、このままで。月明かりの下でやるってのも粋なもんだ」


僕はこの状況を何とかしようと立ち上がろうとするも、見事に櫂くんに引き戻されかなわなかった。且つ押し倒される。せめて褥に、と促すも上手くはぐらかされる。それでも満更ではなかったし、櫂くんが来てくれたことが嬉しかったから今日は早目に見世を切り上げて正解だったな、と胸の内で呟いた。


さあ、夜が眠るまで2人で快楽の世界へ





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -