本当に突然の出来事で驚いてしまった。私は大人しくてそれほど目立つ方ではない。けれど、所謂「告白」というものをされた。私には全く無縁であり自分からするのは勿論のこと、されるというのは予想だにしないことだったから「君のことが好きです」と伝えられた時は何かの間違いではないのかと思ったぐらい。正直なところ、誰かに想ってもらったということが凄く嬉しかったのは事実。でも私が本当に好きなのは──────



「…チ……アイチ!」

「み、ミサキさん!!」

「どうしたの?ぼーっとして。アンタ最近元気ないし、さっきから溜め息ばっかりついてるよ」

「えっと…あの…」


告白を受けた後、ずっと悩んでいた。いつでもいいから返事待ってると言われ、ここ数日間脳内はその事ばかり。どうしようもなくて今日もとりあえずカードキャピタルを訪れる。ここなら色々悩まなくてもいいだろうという考えから自然と足がこちらに向かっていた。自覚はないけど、ミサキさんが言うように最近ずっとこんな調子らしい。自分では普段と何ら変わらないように振る舞っていたつもり。それでもやはり態度に出ていたようで、ミサキさんに心配をかけてしまった。



「…そっか。それは嬉しいことだけど、別にアイチが好きじゃなかったら無理してOKすることじゃないよ。好意は有り難く受け取るにしても、付き合うっていうのはまた違うことでしょう?だから、自分の気持ちに正直にね」

「…はい」

「じゃあ、私は店番に戻るけど…あまり考え過ぎないようにね。ゆっくりしていきな」

「ありがとうございます」


ミサキさんに、告白されたことを話し、アドバイスまでもらって少しは気が楽になった。心中でさすがミサキさんだなあと感心と感謝をしつつも同時に、ごめんなさいと謝った。

本当はミサキさんにも言えなかったことがある。塞ぎ込んでいる本当の原因はこれ。先の告白の際に言われた一言。
告白された直後に何と言っていいかもわからず、好きな人がいるのでとだけ伝え断ろうとしたら、高校生の櫂トシキ?と言い当てられた。図星故に口ごもる。そして次に発された言葉が想像以上の痛手であった。

“俺、君のこと好きでずっと見てたからわかるよ。君いつもカードキャピタルで櫂トシキのこと見てるじゃん。でも、全然相手にされてないよね”

“全然相手にされてない”という言葉が自分でも信じられないくらいに重くずしりと伸し掛かってきた。肯定されるのが怖くてミサキさんに言えなかった言葉。全然相手にされない、か。
私は櫂くんを尊敬している。でもそれ以上に一人の男の人として大好きだし振り向いてもらいたいと思っている。けれど、やっぱり私なんて興味ないんだよね。それは、何より櫂くんの私に対する態度が物語っている。三和さんのように気さくに話し掛けてもらえることなんてないし、カードファイトだって相手をしてもらうことさえない。
これってやっぱり先導アイチ、私自身が嫌われているのだろうか等と後ろ向きな発想しか思い浮かばず、気は滅入る一方であった。



「ちぃーっす!」

「いらっしゃい」

「あれ、アイチ来てたのかよ。今日も早いな」

「アンタが遅いだけじゃない?……って、あら…久しぶり」

「ああ」


奥のテーブルに何ともなしに座っているアイチの耳にミサキと店にやってきた三和の会話が届く。直接声が聞こえるという訳ではないが櫂も共に来ているということをアイチは感じ取る。

(櫂くんが来てる。…久しぶりだな)

暫くカードキャピタルに顔を出していなかった櫂の突然の登場で現実に引き戻される。アイチは普段通りに接しようと顔を上げ言葉を交わそうとするも、例の言葉がフラッシュバックしてきて単純ないつも通りの行為をも困難にさせた。

どうしよう…櫂くんの顔を見ることが出来ない。何を話していいかもわからない。多分、今櫂くんを見たら泣いてしまう。本当にもうどうしたらいいかわからないよ。


「…っ!ごめんなさい!」

「え!?アイチ…!!」


アイチは居たたまれなくなって突然立ち上がり店を飛び出していった。一同唖然とし、三和は慌てふためいているものの唯一事情を知るミサキはゆっくりと櫂の方に目をやり、一言告げる。


「ねぇ、櫂。行ってあげなよ。今行かないとアンタも後悔するよ」



暫く入り口を見つめていた櫂であったが、恩に着ると一言だけ残して店を出て言った。
ミサキはアイチが他に何か抱え込んでいるということに気付いていた。それが何かはわからないが恐らく櫂のことだと。また、櫂のアイチに対する想いにも。誰かが後押しをしてあげなければ一向に交わろうとしない2人の想いに焦れったさを感じながらも櫂とアイチの幸せを願っている。そんなミサキの一言が櫂をアイチの元に向かわせた。
真実を確かめるために走り出した櫂の表情には迷いの色はなかった。



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再び続きます
次で完結!




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