おそ松さん | ナノ


「やばい…」


しまったと思ったってもう遅い。当初予定していた6時という時刻はとっくに過ぎ去って今は7時15分。彼女が迎えに来るのが7時45分。あと30分しかない時間の中で、なぜ目覚ましがならなかったんだと怒っていたってしょうがない。俺が寝坊したという事実はもう、どう足掻いても変わらないのだ。
とりあえずパパッと着替えていつものように髪型をセットする。寝ぐせなんてカッコ悪い姿、愛しのマイエンジェルに見せられるわけない。今まで自分が寝ていたしわくちゃのベッドを簡単に直し、旅行荷物の詰まったキャリーバッグのチャックを気合でなんとか閉めて部屋のキーを持ってオートロックの部屋を出る。ロビーに出ると既に愛しのマイエンジェルが座って待っていた。急いでチェックアウトして駆け寄る。


「時間ギリギリ。寝坊したわね?」

「す、すまない…」

「ふふっ、いいの。カラ松なら絶対寝坊すると思って早めの集合時間にしておいたの。」


そうだったのか、と少し安心した。名前は俺よりも俺のことをよくわかっているんじゃないかなんて感心していると、既に名前は少し先を歩いていた。早くしないと置いていくよと言われているようで、俺は荷物をゴロゴロ引きずりながら小走りで名前の後を追った。
あれからすぐに車に乗り込み空港へ向かったのだがどうしたものか。高速道路は全く混んでいなかったと言うかむしろガラガラだったし、時間的にはとても余裕で空港についた。天候もバッチリ晴れだし風もそんなに強くない。もちろん到着地の天候も何の問題もない。だけど、俺の目の前には欠航の二文字。これは一体どういうことだろうか。


「え、欠航?カラ松何かした?」

「えっ?!いや、俺は何も」

「いいから早く搭乗手続きの列に並ぶよ。」

「あ、ハイ…」


弄られているのかスルーされているのか、出来ればどちらかにして欲しいと思いながら並ぶ。並ぶと言ってもそこまで人は多くなくて3番目くらいだった。ちょうど目の前のカウンターが空き、そこに誘導される。


「おはようございます。」

「あ、おはようございます…。あの、欠航となっている名古屋行きの便に乗りたかったのだが…」

「すみませんお客様。そちら機材の整備でご案内出来ませんので、振替便の大阪行きをご案内させていただきます。」


非常に面倒くさいのだが、どうやら俺たちは大阪行きの飛行機で大阪まで行き、バスで空港から大阪駅まで向かってそこから新幹線で名古屋まで行かなければならないなしい。飛行機代以外は空港が負担してくれるらしいからお金の心配はないようなのだが、ややこしい事になっている。結局他に行く方法がなかったためその便に乗る事にしたのだが、これまた手続きに時間が掛り9時35分搭乗なのに手続きが終わったのは9時20分だった。それから荷物の手続きをしたりして、走って飛行機に乗り込んだ時間は9時35分。二人してゼーハー言いながらシートに座り込む。とりあえず第一段階クリアだ。ただ、二度あることは三度あるという言葉があるくらいだ。俺は既に寝坊もして欠航という事態に直面したのだ。もう一回なにか起きてもおかしくはないから気を抜いてはいけない。


「……ここが大阪…」

「カラ松ー?置いていくよー?」

「あ、待ってくれ!今行く!」


無事(?)に大阪に降り立った。ここからバスと新幹線。全然知らない土地に送り出された俺は正直不安しかない。大体飛行機だって初めてなのに初っ端から欠航って運が悪すぎると思わないか?俺は思う。
空港から出てすぐの所にバス停。どうやら切符を先に買わなければいけないらしいバスに乗りこみあとは駅まで一直線なのだが…LINEがうるさい。兄弟達からの心配メッセージが永遠と届いている。いや、俺はもう成人済みで隣には彼女もいる。そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。そう思っていたらもう駅だ。


「新幹線の切符売り場はどこなのかな?」

「分からないが、みんな上に行っているから上に行こう。」


上へ上がると新幹線切符売り場の文字がでかでかと書いてあった。空港でもらったお金で切符を買って新幹線に乗り込むと、自由席だったが運良く二人一緒に座れた。疲れた俺はそのまま爆睡。隣の名前がえーという顔をしていた気がする。すまないマイエンジェル。睡魔には敵わない。


「……ま……て……まつ…きて、カラ松起きて!」

「んあ…ああ、おはようマイハニー。」

「ほら、降りるよ!」


どうやら名古屋についたらしい。よかった、何事もなくて。みんなに連絡しようとケータイを開くとLINEが200件以上。そのまま俺はケータイをそっと閉じ、彼女の手をとって歩き出した。


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