おそ松さん | ナノ


季節は4月。桜がひらひらと舞い、桜の木にはだんだんと新芽がつき始める頃。私は高校生活最後の春を迎える。


「お〜い、名前〜!」

「おはよう、名前!」

「おはようございます、名前さん。」

「ども。」

「おはようございマッスルマッスルー!」

「名前ちゃん、おはよう!」

「おはようございます、六つ子の皆さん。」


私の高校には世にも珍しい六つ子の兄弟、松野くんがいる。上から順に、いつもニコニコ、みんなから頼られる長男のおそ松くん。スタイル抜群、演劇部で主役張ってる次男のカラ松。礼儀正しい生徒会長、三男のチョロ松くん。真面目で成績トップクラス、四男の一松くん。明るくピュアな天使、五男の十四松くん。きゅるんと効果音着きそうなほど可愛い末弟、トド松くん。


「名前〜、挨拶がかたいよ〜?もう高3だしさぁ、そろそろカラ松だけじゃなくって俺達の事も呼び捨てにしてくれても良いんじゃないの〜?」

「おそ松兄さん、やめてあげてくれ。名前が苦笑いしてるぞ。」

「ちぇっ…カラ松ってば自分が名前の彼氏だからって、ここぞとばかりに助けに入っちゃってさ!や〜ねぇ〜」

「っ〜〜〜!」


ちなみにカラ松とは3ヵ月記念日を迎えたばかり。カラ松は学校でもそれはそれは大層モテなさる。六つ子ではトド松くんを抑えて堂々の一位。そもそも六つ子はみんなモテます。アイドル並み。対して私は平凡。一般人。不細工でもなく特別可愛いわけでもない普通の女の子。六つ子とこんなに仲良くなれたのも不思議だし、カラ松と付き合えたのも奇跡としか思えない。


「そう言えば、今年はクラスどうなるかなぁ?」

「僕まだ名前ちゃんと同じクラスになったことなーい!」

「俺も名前と一緒のクラスにはなったことないな…」


うちの高校は5クラスしかないため、毎年六つ子の内誰か2人は同じクラスになるようで。何故か私は毎年そのクラスに当たる。だから、おそ松くんとチョロ松くんと一松くんと十四松くんは同じクラスになったことがある。そのお陰で六つ子のみんなと仲良くなれたし、こうしてカラ松とも付き合えてるんだと思う。


「うわっ、掲示板混んでんなぁ。」

「ちょっ、おそ松兄さん跳ばないで!足踏んでる足!」

「あっ、俺の名前みっけ!」

「スルーすんなっ!」

「ごめんチョロ松〜。でもチョロさんの名前も見つけたよ。」

「あ、俺のもあったぞ。」

「僕も見つけた!あ、カラ松兄さんと一緒だ。」

「本当だ。1年間よろしくな、トド松。」

「よろしく〜。ところで十四松兄さんは?」

「あったよ!」


どうやら私は5組らしい。一番端のクラスかぁ。あそこのクラス、日当たりはあまり良くないらしいんだよね。


「んじゃ、教室行くか!」


そう言って歩き出し、一番初めに教室へ入っていったのはおそ松くん。1組らしい。続いて一松くんが2組へ入る。3組の前で十四松くんが手を振り、4組の前でそれではまた、と言うチョロ松くん。という事は、残った私とカラ松とトド松くんは5組らしい。どうも私はレアクラスに配属されるようだ。


「やったね!名前ちゃんと同じクラス!」

「名前と同じクラス…なんか照れるけど、嬉しいな!」

「うん!私も嬉しい!カラ松とトド松くんとは初めて一緒のクラスだね!」


一年間よろしく!と3人で笑い合う。日当たり悪いクラスで正直ツイテナイと思ったけど、カラ松と一緒ならそんなのどーでもいいかなって思える。


「今日一時間目って何だろうな?」

「うちのクラスはどの授業からだろうね?」

「んー…僕的には体育以外だといいなぁ。」


そんなトド松くんの願いはむなしく、一時間目は体育。ちょっとトド松くん可哀想かも。


「ねっ、見て見て!カラ松くん!めっちゃカッコイイよ!」

「ホントだ〜!バスケ超うま〜い!あ、トド松くんも可愛い!」

「あの二人のどっちかと付き合えたらいいよねぇ!てかもう六つ子なら誰でもカッコイイ!」


女子の皆さん。手が止まってます。試合が一向に始まらない!男子のバスケって言うか松野家二人を見つめなくていいからバレーしようよ!


「ばっか、何言ってんの〜。カラ松くんは名前と付き合ってるでしょ?」

「そうじゃん残念!で、名前とカラ松くんって、実際どこまでやったの〜?」

「えぇっ?!ど、どこまでって…?」


いきなり何を聞いてくるんですか?!どこまでって…デートはした事あるよ?手…も繋いだ事はある。


「キスは?!キスはしたの?!」

「したに決まってるでしょ〜!だってあのカラ松くんだよ?もろ肉食系じゃん!」

「そうだよねぇ〜!」


え、え?そうなの?!カラ松って肉食系なの?!あれ、でもまだ私達…


「…キスはしてない、かな。」

「「えっ…えぇーーー?!」」

「そ、そんなに驚く…?」

「驚くよ!なんで?!断ったの?!」

「ううん、断ってないよ。」

「えっ、まさか、カラ松くんがしてこないの?!」

「う、うん。」


確かにカラ松くんは男前で何でもリードしてくれそうなんだけど、実際は私のこと壊れ物みたいに大事に大事にしてくれてる。手をつないだ時も優しく握ってくれたし。それにカラ松くんは自分がグイグイ行くタイプって言うか、相手に合わせてくれるタイプだし…


「あっ!名前危ない!」

「えっ…」

ーーーバシッ

「っ!」


顔面めがけて飛んできたボールを避けきれず、そのまま顔面でキャッチ。遠くから友達の心配する声が聞こえる。あ、これ結構鼻が痛いかも、なんて思いながら意識は奥深くへ沈んでいった。


▽▽▽


パチッと目を覚ますと真っ白な天井。ここは…保健室?そっか、一時間目の体育で顔面にボール受けて倒れたんだっけ。私ってば何やってるんだろう。ふと横を見るとカラ松の寝顔。わっ!えっ、ビックリ!もしかして私が起きるのを待っていてくれたのだろうか。めったに見られない恋人の寝顔。カラ松の髪の毛をそっと避けながら寝顔を見つめる。


「ふふっ、イケメンでも寝顔は可愛いんだなぁ」

「まつ毛長いなぁ…ほっぺふにふに」


ほっぺをつんつんと触っていると微かにまぶたが動く。あ、起こしたかも。


「ん…あ、れ…名前、起きたのか?」

「うん。」

「どこか痛い所はないか?大丈夫か?」

「大丈夫だよ。カラ松、ずっとここに?」

「あぁ…名前が心配だからな。」


そっと鼻を撫でられる。優しい手つきがくすぐったくて目をつぶる。


「名前の顔に傷が付かなくて本当に良かった。」

「体育だもん。そんなボールも強くなかったし。」

「でも、名前が倒れた時、俺は本当にビックリした。」

「…ごめんね。」


何事もなくて良かった、言いながら微笑むカラ松があまりにも優しい顔でドキッとした。鼻を触っていた手はいつの間にか私の頬に添えられていて、徐々にカラ松の顔が近づいてくる。
キス、するのかな…
お互いの顔があと数センチでくっつくという所まで迫る。


「名前…キス、していいか…?」


私はいいよと答える代わりにスッと目を閉じた。初めてのカラ松とのキスは少ししょっぱい味がした。



ーーーあとがきーーー

おそ松クイズ!様へ提出する作品。
何だか口付けまでの道のりがとても長い割に口付け自体はあっさりしすぎていた気がします…。
高校時代のカラ松は、この作品ではまだイタイカラ松じゃない事になってます。イタさを取ったらただの男前のカラ松になってしまいましたが、とても楽しく書かせていただきました。また機会があれば参加させていただきたいと思います。


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