今日はなぜだか全く動く気になれなくて、珍しくソファの上でゴロゴロしていた。おそ松はパチンコに行くって言って出てったばかりだし、チョロ松はハロワだし、一松はいつの間にいないから多分猫の所だし、十四松は野球、トド松はフラッと出掛けた。もしかしなくても俺は一人で家にいる。そう考えると途端に出かけたくなった俺はいつものパーカーを着てジーンズとスニーカーを履いて玄関を開ける。
「……」
「…あ。」
「…っうわぁ?!」
目の前に人。驚きのあまり叫びながら尻餅をついた後に名前であるとわかり、恥ずかしいことをしてしまったと後悔。
「え、カラ松大丈夫?」
スッと指し伸ばされる手。女の人らしい手にドギマギしながら軽く掴まり立ち上がる。
「あ、ありがとう。」
「ふふっ、私もインターホン鳴らそうとしたら人が出てきたからビックリしちゃった。」
そういう割にはあまり驚いた表情してないぞ。と思ったが口には出さない。昔から物腰柔らかい人物だった名前はいつもふわふわしていて男にも女にも愛されていた。
「今家に誰かいる?」
「いや、俺以外誰もいない。」
「そっか。カラ松も今から用事?」
「ち、違うぞ!誰もいない家にひとりでいてもつまらないから出かけようと思っただけだ。名前が来るなら家にいる!」
「ふふっ、そんなに勢いよく喋らなくても私は逃げないわ。」
くすくす笑いながら、じゃあ上がらせてもらっていいかな?と聞いてくる名前にコクコクと頷いて招き入れる。
「名前、何か飲むか?」
「うーん…温かいお茶貰える?」
「ああ、いいぞ。いつもの部屋で待っててくれ。」
「ううん、ここで待つ。自分の分は自分で持っていくよ。」
タッタッタと隣に駆け寄ってくる名前にドキドキが止まらない。いや、この可愛い生き物はなんなんだ。俺達六つ子と幼なじみやっててよくこんなにふわふわした可愛い子にそだったなぁ。ふわふわしてるのに仕事は出来るらしいし、モテるのは当たり前だ。なんだか住む世界が違う気がしてきて、余計なことを考えるのはやめようと頭を振る。
「カラ松?」
「ああ、いや。何でもない。さあ、出来たぞ。」
「ありがとう。」
いつもの部屋に入り、コップを置きながらふと思ったことを聞く。
「今日は誰に用があるんだ?」
「トド松だよ。この間借りてたCDを返そうと思って。」
え、トド松と音楽の趣味合うのか…?幼馴染みながら分からないことはまだまだあるなとか思う。
「トド松か。うーん、あいつはいつ帰ってくるかわかんないな…すまない。」
「えっ、いいよ!カラ松と話して待ってるの楽しくて好きだから。」
好きだから。
いや、そういう意味じゃない。俺と話して待つのが好きなだけで、というか謝った俺に悪くないってことを伝えようとしただけだ。
「……カラ松。」
「ん?どうした?」
「恋バナ、しよっか?」
「あぁ、そうだ、え?恋バナ?俺と名前がか?」
「そう。カラ松と恋バナしたことないなぁってふと思ったの。」
恋バナ…恋バナとか名前に告白するのと大差ない気がする。てか、俺以外とは恋バナした事あるのか?!
「じゃあ、…カラ松の理想の彼女ってどんな人なの?」
なるほど。会話のリードはしてくれるらしい。だが、質問はきわどい。理想の彼女って…目の前にいるんだが。とは言わない言えない。
「そうだな…優しくて笑顔が素敵な人だな。」
「そっかぁ〜…例えば?」
「例えば…えっ、例えば?!」
例えばってなんだ?!俺ここで強制的に告白?!
「有名人とかでこの人がいいなぁみたいなのはないの?」
「あ、あぁ。そういう事か。」
心臓止まるかと思った。そういえば俺、芸能人はあまり詳しくないんだった…AV女優とかなら知ってるが…。これはまた窮地に立たされてるんじゃ…。
「…いないの?」
「いない…というかテレビをあまり見ないから知らないんだ。」
「そっか、テレビあんまり見ないんだね。」
「…すまない。」
「ふふっ、カラ松さっきから謝ってばっかだよ?昔はもっとやんちゃで可愛かったのになぁ〜。」
「え?」
なんだなんだ?昔の話か?可愛かった?誰が?俺が?いや、落ち着くんだ俺。こんなクズニートになって残念とかいう落ちだ。きっとそうだ。
「なんか、幼馴染なのにカラ松のことまだまだ良くわかってないんだなぁって思っちゃった。私が一番カラ松の近くにいる女の子だと思って油断してたら、カラ松どんどん成長していっちゃって…私置いていかれちゃったみたい。」
これはなんだ。まるで告白じゃないか…?名前、急にどうしたんだ?!
「ふふふ、そんな事言われてもカラ松も困るよね。でも私、カラ松が好きなの。」
「は、え…えぇぇぇぇ?!」
ビックリしすぎて目玉飛び出るかと思ったぞ。いや、可愛くて仕事も出来てみんなから愛されてる名前が俺を好き?どんな奇跡?!
「そんなに驚くこと、かな?」
「い、いや、だって俺ニートだぞ?!」
「うん。」
「金ないんだぞ?!」
「うん。」
「顔なら、他にも五つも同じ顔あるぞ?!」
「うん。顔じゃないよ。」
「で、でもやっぱり俺クズニートだぞ?!」
「うん、知ってるよ。それでも好き。」
あ、やばい。体が勝手に動いて…
「っ〜〜〜!か、カラ松?」
驚く名前を更にきつく抱きしめる。
「俺も、名前が好きだ。ずっと、昔から大好きだ。」
続かない。
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