ざまぁみろ【源不♀】


ふどきど♀前提の源→不♀で鬼♀←佐久間表現もあり。
色々痛い表現もあるので苦手な方は要注意です。










『あきお、愛してるよ』

柔らかな微笑み。

『あきおは私の事、好き?』

柔らかな髪の香り。

『そう……嬉しいよ、私もあきおが大好き』

柔らかな体の曲線。



全ては、夢の中に沈む――



目が覚めて、一番最初に目の前に広がるのは、コンクリート打ちっぱなしの灰色の天井。
色鮮やかな幸せな夢の後には、その光景は余計に心を締め付けてきた。


「起きたか、あきお」


俺の目が覚めるのを、ずっと横で待っていたのだろう男の声にそちらに視線をやれば、そいつは涼しい顔で本なんか読んでいやがった。ムカついて手を伸ばし本を叩き落とせば、ゆっくりと立ち上がるそいつに俺は無意識に身構える。


「おいたはダメじゃないかあきお」


静かな声色とは裏腹に、乱暴に髪を掴まれ頭を何度かベッドへッドに叩きつけられた。目の前がチカチカと瞬き意識と痛みがぐるぐると頭の中を掻き回す中、今度は酷く優しい口付けを施され息を詰まらせて小さく咳き込んだ。


「止め、ろ……っ気持ち、悪い…」

「嘘を言うな、あきおは大好きだろう?キスもセックスも」

「相手が、てめぇでさえなきゃな」


男は、源田幸次郎は俺の言葉に小さく肩をすくめてからベッドに乗り上げその大きな体で覆い被さってくる。服をはだけさせられ胸を揉まれれば、嫌悪感に全身に鳥肌が立つのを感じた。


「っふざけんな!盛ってんじゃねぇよ…!」

「盛っているわけじゃない、ただあきおを教育してやらなきゃいけないからな………また鬼道の夢でも見ていたのか?」


酷く底冷えした源田の声色に、さっと血の気が引くのを感じる。…悔しいけれど、大好きで愛しくて仕方ない鬼道有人の夢。源田に閉じ込められてから毎日のように見ていた。目を覚ます直前まで夢の中で会っていた。…何かうわごとのように口にしてしまったんだろうか、例えば彼女の名前を……


「ゆう、と」


そう小さく愛しい人の名を呼んだ瞬間、加減も何も無しに頬を叩かれた。
ヒリヒリと痛む頬に涙が滲み目が開けられない。


「いつまで鬼道の事ばかり考えているんだ?あきおの恋人は俺だろ?ほら、いつもみたいに可愛く呼んでくれよ、幸次郎って。…いい加減に鬼道の事は忘れろよ。大体二人とも女の子じゃないか、そんなのはおかしいだろ」

「おかしい、のは…ってめぇの頭だろ!ふざけんな!勝手にこんなところに閉じ込めやがって!!」


幾ら喚こうが暴れようが、源田は人形のような、張りつけたような不自然な笑みを浮かべているばかりで何も言わなかった。
言わなかった代わりに、俺の両腕を片手で軽々と押さえながら全身にキスの雨を降らせいくつも赤い痕を残していった。





源田がおかしくなってしまったのはいつからだろうか、最初は、いい友達、相談相手、といったところだった。
鬼道ちゃんのことを真っ先に相談したのも源田で、応援してくれたのも源田で、鬼道ちゃんと付き合い始めた時、我が事のように喜んでくれたのも源田で………

だからと言って、感傷に浸っている場合ではないのだ。ここに俺を閉じ込めたのは源田で、毎日毎日暴力を振るうのも、好き勝手に俺を抱くのも、源田幸次郎という男なのだ。


「あきお」

「っ…!」


ひやりと一気に背筋が冷えた。思考に集中し過ぎて、源田が部屋に入ってきたことに気が付かなかったらしい。
後ろからそっと抱きしめられて左手首を握られる。ゆっくりと持ち上げられれば、源田はキラキラと光る何かを目の前にかざした。
シルバーのシンプルな指輪だった。


「………なんのつもりだ」

「あきお、結婚しよう」


この男、どこまでこの俺をバカにするつもりなのだろうか。


「っ…ざっけんな!人のこと勝手に恋人から引き離して閉じ込めて、毎日毎日好き勝手にしやがって挙げ句結婚だ?ふざけるのも大概にしやがれ!」


苛立ちだとか焦燥だとか色々、今まで溜め込んでた感情が一気に爆発して体の中を暴れ回る。
勝手に涙が溢れてきてしまう。嫌だ嫌だ、なにもかもが。

「大体、俺はずっと有人が…っ」

「あぁ、それなら心配に及ばないぞ?あきお……ほら」


ふと視線を上げれば、目の前には笑顔の源田と、開かれた携帯の画面。
画面に映し出されているのは、今俺が一番会いたい相手、鬼道有人…………
その彼女が、泣きながら犯されているところ。


「……………」


なるほど言葉を失うとはこういう事か、もう、何を考えればいいのかも分からなかった。


「佐久間がさ、ずっと鬼道の事を好きだったろう?だから、ちょっと後押ししてやろうと思ってさ……やっぱり相当我慢してたみたいで、薬を盛ってちょっとそそのかしてやったらこうだ」


相変わらずの貼り付けたような笑顔でそう言う源田に、俺は何も言えないままただ強く拳を握り締めた。




一人になってからずっと泣いていたらしい。いつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていて、少しだけひんやりとした風に頬を撫でられ目を開けば、珍しくこの部屋唯一の窓が開けられていた。換気のために開けて行って、閉め忘れてしまったのだろうか、それとも、もう俺は絶対に逃げ出さない、とでも思っているのだろうか。
眠っている間に勝手に左手薬指にはめられていた指輪を不快そうに視界の端に写しながら立ち上がれば、窓際に歩み寄り窓の下を覗く。逃げ出せない高さではなかった。
けれど逃げ出してなんてなるものか、もっと、俺が逃げ出すよりもっと奴の心に傷を残すにはどうしたらいいだろう。

ふと、窓に目をやる。指先で感覚を確かめるように軽く押してみれば、確かな重さが伝わってきた。
もしかしたらいけるかもしれない。普通の窓や扉だって、ガキが怪我をしたって話はよく聞くし、失敗しても、今の俺にとってはノーリスクだ。
源田が本当に俺を愛しているならば、確実に心に大きな傷を残すであろう行為を実行するため、俺は窓の固定を外して窓枠に手をかけ、そして…





「あきお、一人にしてごめんな。ちょっと買い物に行っていたんだ」


窓から見える外の景色がすっかり暗闇に包まれた頃、そう酷く申し訳なさそうな表情で言いながら部屋に足を踏み入れた源田にゆっくりと振り返り俺は小さく笑みを浮かべた。


「ん?ご機嫌だなあきお、そんなに気に入ってくれたのか?俺の……」


自らの薬指にもはめられた、俺に無理矢理押しつけてきた指輪と同じデザインの指輪を満足げに見つめながら言う源田に、俺は指輪を投げつけ左手を突き出してやった。


シーツの切れ端でぐるぐるに巻かれた左手に、一瞬なにがなんだか理解出来ていないようだったが、シーツに染み込む赤色と確かな違和感にすぐに気が付いたらしく驚きに目を見開きみるみる顔が青ざめていく
俺は笑いだしてしまいそうなるのを必死になって堪えながら、血に塗れたシーツを引き剥がし痛みに顔を歪めながらも勝ち誇ったように笑ってやった。
薬指を失った左手をかざしながら。


「ざまぁみろ」




10.09.22--ざまぁみろ
-----鵯


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