「遅ェ!」
「うわっ!」


帰宅して玄関ドアを開けると、すごい勢いでエースに詰め寄られグッと腕を引っ張られて。平均並みの運動神経しか持ち合わせていないわたしが急なそれに反応出来るはずもなく、されるがままに壁へと押し付けられてしまう。いででで…。


「我慢できねェ。なあ、もうここでやっていい?」
「なんか言い方がやだ」
「細かいことは気にすんなよ」
「とりあえず部屋に入れて。靴も脱ぎたいし…。」
「だからそんな余裕ねーんだって!」


そう言うや、素早く首元に顔を埋めてきたエースがグッと歯を突き立てる。根本的に上手なローや気遣いの出来るキッドと違って、本能のままにぐいぐい攻めてくるものだから実はエースのが1番痛い。

そして、意外にもこの首からの吸血っていうのが1番恥ずかしい。なんか近いよね。髪の毛とかほっぺに当たるし。たまにゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてきたりするし……なんて思っていたところに、突然の激痛が襲う。


「いっっっ、たい…!」


ガクリと力が抜けたように覆いかぶさってくるエースに押しつぶされ、壁伝いにずるずるとしゃがみ込む。それと同時に重みで歯が食い込むものだからこれがまた痛い…!途中で寝るのやめろって何回言えばわかるんだこのバカエース!

終いには行き場をなくした血液が首を伝ってたらりと垂れてくるからたまったもんじゃない。
うおぉぉ、嫌な感覚!拭きたい!てか服に付く…!


「エース!起きて!早く!」
「ん、ぐっ!」


耳元でワアワア騒げば、ハッと目を覚ましたエースが再び血を吸い上げる。でもまあ起きて早々悪いけど、そろそろダメかもしれない。


「えっ、まじで?!もうキツい?」
「うん。微貧血きそう」
「…あとちょっともムリ?」
「ムリ」


キッパリ答えると、渋々了承したエースがベロっと首筋を舐め上げてくる。エースの終了のサインだ。それこそはじめの頃は恥ずかしいからやめてくれと頼み込んだけれど「だって勿体ねーだろ」と真面目な顔で言いくるめられてしまった。あれだよね。ケーキのフィルムにクリームついてたら取っちゃうのと一緒だよね。ちょっとわかる。


「あー、でも満足した」
「そりゃよかったねー」
「おー」


機嫌の良いエースに腕を回され、ギュウギュウと強く抱きしめられる。


「…で、そろそろ靴脱いでもいい?」
「脱がしてやるよ。フラつくだろ?」
「あ、ありがと…。」
「おう!とりあえずなまえはプルーン食っとけ、プルーン!」
「だね〜」


ニッと笑顔を浮かべたエースに肩を支えてもらいながら部屋へと向う。が、しかし。どうやら待っている間に暴食したらしい。ストックのプルーンが綺麗サッパリ全滅しているではないか。


「見事な食いっぷり…。」
「いや、全部食ったつもりはなかった!やべえ!プルーンねェよ!」
「や、そこは別に大丈夫だよ」
「よくねーって!プルーンなかったらどーすんだよ!血!」
「平気だって。またキッドがくれるだろうから」
「それ何日後の話だよ……あっ、てか俺の血吸えばいんじゃね?」
「は?」
「知らねえ?吸血鬼に噛まれたらそいつも吸血鬼になる、っての」
「……はい?」


つまり今のなまえは人間寄りの吸血鬼ってこと、なんてキメ顔で言うエースを前にとてもじゃないけど冷静でなんていられるはずがない。


「そーいうことだから俺の血やるよ」
「う、うそだ…。うそだうそだうそだ!」


なに勝手に人のこと仲間に引き込んでくれてるの?!?!


(ありえないありえないありえない!)
(いいじゃん女吸血鬼ってなんか色っぽいぞ!)
(そーいう問題じゃないじゃんアホエース!)


さんにんめ
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