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立派なお寺に隣接するこれまた立派な一軒家。
テニス部の後輩であるリョーマくんの家をアポ無しで勝手に訪ねてきたわけだけれど、その見事な迄の佇まいに一人圧倒されてしまった。
いいなあ、こんな素敵な家に住んでるなんて羨ましい…!

そんな羨望の思いを胸に家屋を眺めていると、偶然にも菜々子さんという超絶綺麗なお姉さまが玄関から出てきて。焦り半分で「青学テニス部マネージャーしてます!」とお伝えしたところ親切にも彼の部屋まで連れてきて下さった。

いやあ、なんかもう急展開過ぎてどうしよう。


「……で?」
「ん?」
「連絡もなしに突然来てなんなんスか、なまえ先輩」


その視線からは「ありえないんだけど」というリョーマくんの感情がわかりやすいくらいにヒシヒシと伝わってくる。……そうだよね。せっかく部活が休みなのに唐突にすみません。

部屋着なのだろう、Tシャツと半ジャを身につけた如何にも寝起きのリョーマくんに謝罪の意を込めて小さく頭を下げておくことにした。


「や、本当いきなりごめんね」
「ッス。じゃあ俺寝るんで。さよなら」
「いやいやいや!それは困る!困るよ!」


ていうかもうお昼じゃん!うら若き青少年がいつまで睡眠を貪るおつもりで…?!
再びベットに潜り込んでいこうとするリョーマくんの程良く筋肉質な腕をぐいと掴めば、先ほどのデジャブだろうか。再び「ありえないんだけど」みたいな視線を向けられてしまった。


「…俺、成長期だから眠いんッスよね」
「うん、でも起きて!宿題手伝って!」
「………は?」


勢い任せにぶっこんだ結果、果てしなく「はあ?」みたいな顔で見られている。
わかる、気持ちはわかるけど察してください。
本場で養われた英語力でどうにかわたしを助けてくれよリョーマくん…。


「夏休みの課題が全然わからなくて…。」
「なんで俺なんスか。部長とか不二先輩とか勉強出来る人いっぱいいるじゃん」
「怖いでしょ!その辺のメンバーが醸し出す威圧感の怖さを君はまだ知らない!」
「じゃあ大石先輩とか、」
「当然のように菊が独占してます」


カバンから英語のワークを取り出して言えば、枕に顔を埋めたリョーマくんが「…ハア」と小さくため息を吐いたのが耳に届いた。
やばいぞ。断られそうな予感がプンプンする。

………あ、そうだ!


「ちゃ、ちゃんとお礼はするよ!タダでとは言わないから…!」


パッと思いついたことをそのまま口に出してみれば、不貞腐れていたリョーマくんが意外にも良好な反応を見せてくれた。
枕に埋めていた顔をひょこっと上げて、「なにしてくれるんスか?」だって。
うわ、やっぱりこの子可愛いな…!


「食べちゃいたい」
「は?なに、食べるって」
「おっと心の声が。なんでもないよ、気にしないで!」


危ない危ない。危うくドン引かれるところだった…とか思ったんだけど、どうやら手遅れだったらしい。既にドン引いた目で見られている。


「なんか身の危険感じるんで出てってもらっていいッスか」


はい。大人しく土下座させて頂きましたとも。
邪な気持ちはきれいさっぱり捨て去るんで見捨てないでくださいリョーマ様…!


「まあお礼はわたしのことを一日好きにしていい権利とか、」
「………」
「わ、わかった!ファンタ1週間分でどうだ!」


単純計算で120円×7日=840円…!お小遣い的にはちょっと厳しいけどイけるはず!
そんな脳内会議を同時進行させていると、フッと小さく微笑んだリョーマくんが「その話ノった」とベットから降りてきてくれて、ワークをパラパラと捲り始める。

その姿を前に「ああ、ファンタの力って偉大だな」なんて改めて再確認。


+ + +


「や、やっと終わった…。」
「なまえ先輩壊滅的すぎなんスけど」


まさかこんなワーク教えるだけで3時間もかかると思わなかった、と落胆混じりに呟くリョーマくんには感謝をしてもしきれない…!
まず説明しようとしてペンを走らせたリョーマくんの筆記体が読めない、ってところから始まったからね。あの時の「まじかよこいつ」的な視線はきっとこの先も忘れないと思う。

とまあ簡易テーブルに頭を預けながらこの数時間のことを軽く回想していると、不意に脇腹を突かれてビクン!と勢いよく身体が跳ねた。


「えっ!な、なに?!」
「いや、寝るつもりなのかと思ったから」
「あ、ああ…。」


たしかにここでスリープされたら困るよね。
ごめんごめんと目を擦りながら謝れば、少しのあいだ黙り込んだリョーマくんに「…寝るならここ使えば?」なんて言われて一瞬思考がショートしかけた。

だ、だってそこリョーマくんのベットじゃん?他人に使われて嫌じゃないの…?
そんなことを思っていたら、「俺も眠い」と先にベットに入ったリョーマくんにおいでおいでと手招きをされたりして。

……あれ?なんかさっきよりも状況がおかしくなってないですかね…?


「ええっと…リョーマく、」
「ねえなまえ先輩、抱き枕になってよ」
「は、はい?!」
「はやく」


くいっと口角を上げたリョーマくんに急かされて動揺は更にヒートアップ。……いや、だけど!
わたし達カップルとかそういうんじゃないし?部員とマネージャーっていうお友達関係だし?

その他諸々にも思うことはたくさんあるはずなのに上手いこと言葉にならなくて無意味に口をパクパクさせていれば、呆れた表情を浮かべたリョーマくんに「早くしないと今度ツイストサーブ当てるけどいいの?」なんて最恐の脅し文句を投げつけられてしまった。こ、怖!!!


「それにさ、なまえ先輩が言ったんじゃん」
「言ったって……なにを?」


不敵に微笑むリョーマくん相手に引け腰になりながらも返事を返せば、自分の隣をポンポンと優しく叩いて有無を言わせない雰囲気の中、ポツリと一言。





(えっ!や、でもそれはファンタ1週間分って話になったんじゃ、)
(ファンタも貰うし先輩のことも好きにする、ってことで)
(よしわかった!ファンタ2週間分に増やすから抱き枕はなしの方向で、)
(やだ)
(じゃあ、)
(だめ)
(………)

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TOY様「夏休みお題」から。
我が道を行くリョーマくんにとことん翻弄されたいです!
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