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夜空に浮かぶまん丸い月を眺め、ゆったりお猪口を傾ける。流れ込んできた液体をゴクリと嚥下すれば、お酒の風味が鼻を抜けるのと同時に喉が熱くなった。

なにこれ超美味しい…!さすが晋助の隠し酒だわ。バレたら殺されるけどその危険を侵すだけの価値はある。
さ、最高のお酒じゃねーの!


「あー、おいし〜」


みんなでドンチャン騒ぎして飲むお酒も好きだけど、こうやって屋根の上でひとり酒っていうのもなかなかにイイ。新たにもう一杯注ぎ足そうと気分よく一升瓶に向かって手を伸ばせば、ひょこり。
視界に銀色が映り動きを止める。


「えっ」
「あ?」


え、あれ?ぎ、ぎぎぎんとき?ちょっと待ってどうでもいいけど静かにしてて。仮に晋助にバレようもんなら滅されるから!天に召されるから、わたし!


「なにしてんのお前」
「な、なにも」
「いや、明らかに今キョドってたじゃん。目白黒させてたじゃん」


納得がいかない、と不審な目で見てくる銀時にチッと舌を打つ。が、どうやらそれがいけなかったらしい。不機嫌そうに顔を歪めた銀時が声のボリュームを上げやがった。やめろ!まじでやめてくださいィィ!


「えっ、なまえチャン今舌打ちした?強気な女は嫌いじゃねーけど舌打ちはちょっとさァ、」
「あー!わかった!ごめん!とりあえずどっか行くか上がってくるかしてくれるかな?!」


屋根上に登ってくる際、足場に使う塀がある。
たった今銀時はそこにいるわけで、もしも運悪くわたしの危惧してる人物が通りかかろうものなら見つかる確率が一気に跳ね上がるというわけだ。つまり、そこに居座るのはまじでやめてほしい。

冷汗をだらだら流しつつ選択を迫ると「んだよ、情緒不安定ですかこのヤロー」なんてぶつくさ言いながらも隣まで来て腰を下した銀時。よくよく見ると、その左手にお猪口が握られていることに気が付いた。……まさか、コイツ。


「月見酒、俺も混ぜてくれよ」


にいっと嫌な笑みを浮かべる銀時を前にして、顔が強張る。元より、お猪口3杯分までと決めて飲んでいたのだ。だってあんまり派手にやったらバレるじゃん怒られるじゃん…!けれどそこに銀時が加わるとなれば話が変わってくる。酒に弱いくせに多量飲みするヤツのことだ。最悪、飲み干し兼ねない。だめだ。それだけはだめだ!


「あっ!じゃあ他のお酒探してく、」
「なんでだよ。それが飲みてぇんだけど」
「やだよ銀時全部飲んじゃうじゃん!」
「まあいいけどー?くれないなら呼んじゃうよー総督呼んじゃうよー」
「ぎゃああ!だめ!それはだめ!」


くそう、全てお見通しってわけか!このお酒の真の保有者までわかっていたらしい銀時はどこまでも強気な態度で攻め込んでくる。やばい、これはどっちに転んでもやばい…!


「大丈夫だっつの。水でも入れて戻しときゃバレねーよ」
「バレるわ!晋助ナメんな!」
「くすねた張本人が言うんじゃねーよ最もナメてんのはおめーだよ!」


言った銀時が一升瓶に手を伸ばし、あろうことか直に口をつけた。いわゆるラッパ飲みである。………って、いやいや!


「何やってんだ天パァァ!」
「うぃー、なかなかうめェなコレ」
「あ、ありえない…。終わった…。」
「オイオイ、シケた顔すんな。せっかくの酒が不味くなんだろーが」


いけしゃあしゃあと言う銀時にカチンときた。
ゴクゴクと喉を鳴らす姿を思い切り睨みつけようと振り向けば、次の瞬間。
今度は一升瓶の口がわたしの口元へと充てられた。思いのほか勢いがついていたようで、鈍く歯が痛む。しかし、そんなことを気にする暇もなく瓶の中身は喉の奥へと流れてきて。うおお、熱い!喉が熱いぃぃ。


「ぷはっ!」
「やべ、溢した」


飲みきれなくて口の端から零れ落ちた水滴を、銀時の親指が優しく拭う。……恥ずかしい。とんでもなく照れる。耐えきれず顔を少し後ろにずらそうとすれば、気付いた銀時に腕を引かれ驚くほどの近距離で目が合った。


「銀、時…。」
「すでに共犯なんだしよ、飲もーぜ」


酒のせいか、普段より艶のある笑みを浮かべる銀時を前に思わずゴクリと喉を鳴らす。


「なまえもまだ飲み足りねーだろ?」
「っ、」
「な?」
「わ、わかったよもう…!」
「っし、そうこねェとな。ほら、猪口だしてみ」


嬉しそうに酒瓶を傾ける銀時を横目に、きっと一滴たりとも残らないであろうその中身を思って、胸の中で密かに晋助に謝罪をした。


(あ?んだよコレ)
(な、何も言わずにもらって。晋助が好きな味だと思うから…!)

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全部飲み干しちゃったら流石に罪悪感マックスで新しいの買って返しましたなオチで…。
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