tns・他 | ナノ


「お前どうしたのそれ?ジャイアンでも目指してんの?」
「違う」
「じゃあなに?ちびまるこ?まるこモデル?」
「違うってば!」


畳の上でゲラゲラと笑い転げる銀時が底なしにうざい。ちょっと笑いすぎじゃない?いくらなんでも笑いすぎじゃない?
ひいひい言いながら蹲っている銀時を思いきり睨みつけると、目が合ってさらに笑われた。む、むかつく…!


「銀時のバァァカ!」
「…ぶはっ!ちょ、まじダメだわ!隠せ!手で隠せそれ!」
「はあ?なんでそんなことしなきゃ、ぎゃっ!」


肩を震わせ身を乗り出してきたかと思えば、ぺしんと音を立ててデコを押さえつけられた。見ると、銀時の両目にはうっすらと涙の膜が張っている。


「やっべ、笑いすぎて涙出てきた」
「人の顔見てそこまで躊躇なく爆笑するの銀時くらいだと思う。ほんとデリカシーが欠如してるよアンタ」
「いやだって、お前それ身を呈したギャグかなんかじゃねーの?どう見ても笑いを取りに来てるとしか思えねーんだけど!」
「ギャグなわけあるか!切りすぎたの!ちょーっと手元が狂って切りすぎちゃったの!」


デコに添えられた手を払いのけて言う。すると再び露わになった不格好な前髪を前に、ぶふー!っと銀時が噴き出した。
おかげで唾が顔に霧散されて一気にやるせない気持ちになる。今の今まで感じていた銀時への憤りもどこへやら。一周回って落ち込んできた。
ハア、なんでわたしがこんな目に…。

「…もういい。変なのは百も承知なんだよコノヤロー」

こうなったらもうアレだ、臭い物に蓋の原理だ。部屋にこもろう。1日こもったくらいじゃ前髪は伸びないだろうけど、気を落ち着かせることくらいはできるはず。そうと決まれば、さっそく自室に向かうべく立ち上がった。

そしてくるりと体の向きを変えれば、なんとまあ…。

「……よォ」

首にタオルを引っかけた風呂あがりらしい晋助がつっ立っており、例に漏れず顔面上部を痛いくらいに注視される。…ふん、どうせ晋助も茶化す気に決まってる。

銀時のゲラ声をBGMに、ぎゅうっと眉間に皺を寄せた。


「なに睨んでんだよ」
「……晋助も笑うんでしょ」
「あァ?笑うって何を…って、銀時てめェさっきからうるせーな。何一人で笑い転げてんだよ」
「えっ、なにそれ本気で言ってる?お前の目は節穴かよ身体張って笑い取りにきてるなまえに謝れ!」
「違うって言ってんだろーが!お前が謝れ銀時ィィ!」


晋助の首からタオルを抜き取り、それを振りかざしながら銀時を振り向く。けれど、不意打ちにタオルをくんっと引かれて後ろに一歩よろめいた。
……晋助だ。晋助の仕業に違いない。


「ちょっと離してよ晋す、」
「別段変なこともあるめェ」
「…え?」
「俺は嫌いじゃねーけどな」


喉の奥で小さく笑う晋助にちょい、と前髪を摘ままれる。
……笑ってる。たしかに笑われてることに変わりはないはずなのに、銀時のそれとは明らかにニュアンスが違っていた。

ど、どどどうしよう。晋助がかっこよく見えるんですけど。心なしかキラキラオーラが見えるんですけど…!


「オイオイオイなに優男ぶってんだよ高杉!どう見てもジャイアンかまるちゃんだろ!究極におもろいだろ!」
「てめェが人の髪型とやかく言える立場かよ万年腐れ天パ」
「あァーん?!」
「ンだよ」


わたしを挟んだ状態でワアワアと揉め始めるふたり。普段冷静な晋助も相手が銀時となると話は別で、右から左からギャンギャンと怒声が飛び交う。


「ていうかさァ、お前シャンプーどれ使った?なんか嗅ぎ慣れた匂いなんだけど?この匂いすんげー親近感あるんですけど?!」
「共同のモンが空になってたから隣にあったのを使っただけだろーが。…ああでもそういやァ、ボトルに何か書いてあったか。あまりにもきったねー字で読めなかったけどよ」
「銀時の!、って書いてあったんだよクソちび杉ィィ!なにが悲しくてテメェと同じ香り振り撒かなきゃなんねーんだ!つーかなんで同じシャンプー使ったのにそんなに髪サラサラしてるわけ?ツヤツヤなわけ?なんで俺にはその効果適用されないわけ?!」
「知るかよ販売メーカーにでも問い合わせりゃいいだろ」
「はァん?!」
「ちょ、ちょっと!落ち着いてよふたりとも!」


ヒートアップしていく彼らの服の袖を少し強く引けば、ギリギリと歯を食いしばる銀時とフローラルな甘い香り漂う晋助が同時にわたしを見た。言われてみるとたしかに晋助から銀時と同じ匂いがして、そのチグハグ感が少しだけ笑える。

「はい、喧嘩はもう終わり」

銀時、晋助と交互に視線を移す。
すると、あろうことか前者は目が合うなり再び笑いの渦へと飲み込まれ、後者は微かに目を細めわたしの頭を撫ぜた。

……ああ、なんだかなあ。
晋助がモテる理由がよくわかる気がする。
それと、銀時がモテない理由も。


(晋助の爪の垢を煎じて飲め銀時)
(飲めるかンなもん!!!)

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損な役回りでごめんなさい銀さん。
本当はモテるの知ってます!大好きです!
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