tns・他 | ナノ

(※14〜5歳あたり)


男の子は成長期に入ると急激に背が伸びる。そしてそれは女の子だって同じだ。
個人差はあれど、伸びるものは伸びる。


「やばいまた伸びたー!」


一本の柱の前で喜々して言うと、隣に立つヅラがムッとして釘のようなものを手渡してきた。そしてそのまま柱へと背を付けると、チラリと視線が向けられる。
…へいへい、わかりましたよっと。
小さく背伸びをして柱に線を引けば、確認したやつはドヤァと腹立つ顔でわたしを見た。


「どうだ見てみろなまえ。俺も伸びたぞ」
「……ふん」
「まあお前も同世代の女子の中では十分高い方だろう。気に病むなよ」


ちっとも「気に病むなよ」のセリフを吐くに相応しくない自慢気な表情のヅラをじとーっと睨みつける。なんだろう、この敗北感。男と女じゃ差が出るのが当たり前っちゃあ当たり前で、それを理解しているはずなのに果てしなく悔しい。

「あっ、あ〜!でも見てよヅラ。銀時には負けてるんだね」

我ながら悪どい顔をしてると思う。
一番上に引かれた線を指差してワザとらしく言うと、「銀時のコレは頭についてるあのモジャモジャ分も含まれてるからな。つまり不正だ」だなんて不満そうに言うものだから、ついブフー!と噴き出してしまった。直後、ゴツンと脳天に鈍い衝撃が走る。


「いでっ!」
「頭についてるモジャモジャってなんだコラァ。普通に髪って言えよ、もしくはヘアーでも可!」
「なんでわたしをぶつの!言ったのはヅラじゃん!」
「うるせー。笑ったお前も同罪なんだよ」
「そうだぞ、同罪だなまえ」
「おめーは主犯な」


再び響いた低い音に、頭を抱えたヅラがその場で蹲る。へっ、ざまあみろ。半笑いでヅラを見下ろしていると、今度は銀時が柱に背を付けてわたしの袖を小さく引く。誰がどう見ても圧倒的勝利のくせに、それをこの場で見せつける気か銀時のヤツ…。

そう少し卑屈になりながらも、柱に近寄り腕を伸ばした。が、しかし。


「う、ぐっ!」
「あれぇ〜?どーしたのなまえチャン」
「ちょっ、銀時また伸びた?!」


正面に立って頭頂部の向こうにある柱へと手を伸ばすものの、なんてことだ。まったくもって届かないじゃないか。プルプル震えるつま先をそのままに、銀時の肩を支えにして思い切り伸ばすけどそれでもやっぱり届かない。こうなったら代わりを、と思っても気付けばヅラはいなくなっていて。……くそう!


「あと少しなんだけ、どっ?!」
「おっと」


どうやらつま先立ちの限界を迎えたらしい。がくりと身体が傾いたかと思えば、そのまま全力で銀時へとのしかかってしまった。持っていた釘はバランスを崩した拍子に手からすり落ちたみたいで、床にぶつかりカランと小さく音を立てる。
よ、よかった…。持ったままだったら危うく銀時の頭をぶっ刺すところだった。


「大丈夫か、…よ」
「うん。ご、ごめん」


今離れるから、そう告げて体制を立て直そうとするも、滑った拍子に背中へと回された銀時の腕が一向に緩む気配がない。立ったまま柱とわたしにサンドイッチされて身体が痛くないのだろうか。不思議に思って顔を上げれば、あちらもわたしを見下ろしているもののお互いの視線は微塵も交わらない。


「……なあなまえ」
「なに?」
「お前さァ、背はそこそこだけどよ」
「ぎゃあ!ちょ、鼻血!鼻血出てるよ銀時!」
「こっちにキてるわ、成長期」
「言ってる場合か!鼻血が垂れてくるって!!離れろバカ!」


ダラダラと鼻血を流しながら互いの胸の接地面をガン見している銀時を見て、大げさに頬が引き攣る。


「身長なんざに力入れねーでこっちに力込めたお前のホルモンさんはグッジョブだよ天才だよ。褒め称えるわ」


鼻血まみれのままグッと親指を立てた銀時を足払いしたわたしは悪くない。悪いのは全面的にコイツだ。

床に転がり落ちていた釘を片手に、足早にその場を去った。


(しばらく話しかけないでください思春期ヤロー)
(先におっぱい押し付けてきたのそっちだった気がするんだけど)
(う、うるさいうるさい!)

--------------
当初の予定では村塾メンバーでやろうと思ってました。いつの間にか銀さんがメインに…。
×