たとえ酒の力だとしても、


男達を魅了して止まないセクシーなナース達が羨ましい。
街角ですれ違うたった一瞬の隙にもその視線を絡め取ってしまえる艶やかなお姉さんが羨ましい。
極論、スッと細められたエースのあの熱っぽい瞳に留まる女の人が羨ましくてたまらないのだ。


「なまえー。スカート短すぎじゃね?パンツ見えそうだぞ」

見せてるんだよ。わざと。こちとらどうやったらエースにそういう目で見てもらえるのか試行錯誤しすぎて諸々と拗らせてるモンでね。
こんな下劣な方法でもいいから、今晩だけでもいいから、その目にわたしだけを映してほしいって思う。

好きになってくれだなんて贅沢は言わないし、両思いになれたらなんて大それた夢も見ない。

だから、せめて。
一晩だけでも下心ありきでこっちを見てよエース。


「うおぉっ!やべ!そのまま膝立ててくれよ、なまえ!」
「もっと捲ってください」
「エロい格好してんな〜!脱げ脱げ!」


宴の盛り上がりも最高潮に達し、いい具合に酒の回った2番隊員が冗談半分、本気半分な口ぶりでわいわいと囃し立ててくる。でも、違う。
誰もアンタらを焚きつけたくて着てるわけじゃないんだっての…!

「やめろやめろ。ンな目で見んじゃねーよ!」

お前は見ろ!いや、見てください!
……ていうかこの視覚に訴えかける強行手段でさえ通用してなくない?何普通に接してくれてんだ。わたしってそんっっなに色気ないわけ…?

「そうなったらもうまじでゴリ押し作戦しか残ってないんだけど」
「は?作戦ってなんのだよ?」
「教えませーん」

言いながらエースの持つ樽ジョッキを取り上げる。すると予想通り、酒で赤く染まった顔を怪訝そうに顰めて「それ、俺の」と手を伸ばしてきたので。

「代わりにこっちあげる」
「げっ!焼酎好きじゃねェんだけど…。」

うん。知ってる。
エースが焼酎苦手なことも、飲み進めるうちに悪酔いすることも全部知った上での行動だ。

そして、そんな彼の煽り方だって完璧なほどに熟知しているつもり。

「へえ〜やっぱりこーいう大人の味は苦手なの?そっかそっか〜エースはお子ちゃまだな〜」
「……せめて水かなんかで割れよ。瓶ごとってお前、」
「じゃあ今から勝負して少しずつ罰ゲームで飲んでこうよ!それならラッパ飲みでもいいでしょ?」

ねっ?とエースの右手に収まる焼酎瓶を指差す。
さあどうだ。ガキ扱いされてこれ以上引けないうえに、罰ゲームだなんだの類は大好きでしょ?
この状況でノらないはずがない。

「…いいけどお前飲めんのかよ?」
「負けなきゃいいんじゃん?」
「おーおー、すげェ自信だな」

ニヤリと口角を持ち上げたエースに負けじと好戦的な笑みを返す。そう。ゴリ押し作戦とはまさにコレのこと。桁違いに虚しいけれど、この際酒の勢いでもいい。対わたしに総動員してやがるその憎らしい理性をなし崩しにしてやる…!


+ + +


「やっっっべぇ」
「ううっ…。」


あれから数十分。ノンストップでジャン負け飲みを続けた結果、なし崩しになったのはエースの方だけじゃなかった。途中、勝負の舞台がエースの部屋に移った時はキタコレ!と正直かなり期待したけれど、相も変わらず嵐のような飲み合いが続くものだから半ばヤケになってしまったのである。くっそう…!

「…まじエースむかつく」
「むかつくなよ」

ベッドの上でふたりしてごろりと横になりながら、短い言葉をぽつりぽつりと交わし合う。
いや、でもほんとまじでどーなってんの?酔っ払って同じベッドに寝転がってそれでもなにも起きないってなにそれ…。

ドロドロと融解する脳内で延々そんなことを思っていれば、一周回って段々と腹が立ってきた。


「そりゃあ寿司とかステーキみたいな豪華な据え膳じゃないのは自覚してるけどさー!わたしみたいなのでも一応女じゃん!おにぎりレベルの据え膳だとしてもそれを食べないのは男の恥なんじゃないんですかねー!」


…………うわ。言った。
口にするつもりは一ミリたりともなかったはずが、酒で気が大きくなっていたのだろうか。なかなか支離滅裂な発言ではあったけど、よほど鈍くない限りそこに籠められた意味は汲み取れたはずで。

恐る恐るエースのいる方へと顔を向ける。するとーー、


「…色気のねぇ煽り方だな」
「っ、!」


ギシッとスプリングの軋む音に続いて布の擦れ合う音が静かな部屋に響く。しかし、それよりも気になるのは覆いかぶさってきたエースから注がれるその熱っぽい視線の方だった。

いつだって他の子に向けられていたそれが今は真っ直ぐわたしにだけ向けられている。その事実がたまらなく嬉しくて、よもや幸せさえ感じるんだから重症だ。

「ったく、ここ最近誘うような素振りで俺の周りウロチョロしやがって。…あんなん生殺しだろ」
「そ、そんなこと言ってわたしには一切手出してくれなかったくせに…!」
「なまえにはっつーか誰にも出してねぇし」
「美乳のナースさんおよびHなお店の客引きお姉さんのことあーんなにエロい目で見てたのに?」
「…そりゃあ男のサガだろ」

色っぽい女が居たら見ちまうに決まってる、なんてケロッと言ってのけたエース。

「まあけど抱くってなったら好きな女一択だぞ」
「へぇ…好きな子だけ?」
「自分の女としかシねぇ」
「…あぁ、そっか」

それは、つまり。
こうして際どい状況になったところでお前みたいなチンチクリンをどうこうするつもりは毛頭ねーよ、ってこと?

「っ、あの、」
「その意味わかったうえでなまえが据え膳してくれるってんなら喜んで食わせてもらうけどな」
「………は?」
「成り行きだとか勢いでヤッちまえるほど軽い気持ちじゃねーんだ、お前のこと」


期待はしないって。
大それた夢は見ないって。
そう決めたはずなのに。
そんなことを言われたら嫌でも揺らぐではないか。
ついさっきまで酒でボヤけていた思考はすっかりクリアになったものの、今度はおもしろいほどに視界がボヤけて。

ぐにゃり、ぐにゃり。

盛大に滲む視界の向こう側で、眉を下げたエースが柔らかくはにかんだ気がした。


酒での過ちだったと、
気の迷いだったのだと、



(そう見切りをつけられたって構わないから)(それでもいいからあなたに求められたいと、)(ずっとずっと願ってました)


(ずびっ。こんなおにぎりでよければ喜んで据えさせて頂きます)
(泣くなっての)
(ううっ!こっちは必死だったの!笑わないでよエースのばか、ンむっ!)
(…あ、悪い。あんまり可愛くて、つい)
(っ、!っっ!)

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【テーマ:酒での失敗】
当初は誘われるがままにヤッちゃうエースと切ないながらに幸せ見出しちゃうヒロインにしようかと思って書いてたんですけど誕生日夢にらしからぬ雰囲気になりそうで断念しました( ´ ` )笑
ただただベタ感が薄い…!


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