case2


カーディガン(借り物)およびブレザー(忘れ物)を一刻も早くポートガス先輩に返さなくちゃ…。
そうは思うものの、こういう日に限って移動教室が重なっており3限が終わった今も尚それらが手元にあるものだから申し訳なさが募る。


「あれ?なまえどこか行くの?次体育だよ?」
「ごめん!ちょっと寄ってくところあるから先に行っててー!」


友人たちにそう告げると、右脇に体育ジャージ、左脇にカーディガンとブレザーを抱えて一目散に教室を飛び出す。そのままの勢いで階段を駆け上れば、あっという間に3年生のフロアへと辿り着いた。

……よし、ここからはしらみ潰しだ。とても気まずいけれどひとつひとつ教室を覗いてポートガス先輩を探そう!そうしよう!

時間がないという現状が背中を押したのか、そんな無謀すぎる策でも実行に移すまでは早かった。サッと覗いては次、サッと覗いては次を繰り返しお目当ての先輩の姿を必死に探しまわる。


「(……ん?んん?)」

しかし、残念なことに最後の教室まで見て回ってもポートガス先輩を見つけることは出来ず。
……トイレ?それとも自販機?はたまた早退?なんて焦りが頭を占める中、とりあえずはジャージに着替えておくことが先決かもしれない、なんていう考えに思い至って。

「(い、急げ急げ……!)」

少し離れた場所に見つけたまるで倉庫と化している空き教室。迷わずそこに滑りこむと、すぐそばの机にジャージ一式と借り物一式を乗せ、大急ぎでセーターとシャツを脱ぎ捨てた。


+ + +


「……念のため教えといてやるけど夏はまだまだ先だぞ」
「ンなことわかってるっつーの!」
「じゃあなんだよその格好」

見てるこっちが寒い、とカーディガンの袖を伸ばし指先まで隠したサボを傍目に今しがた自販機で買ってきた炭酸ジュースをグイっと呷る。そうすることでシュワシュワと弾けては消えゆく特有の刺激を感じつつ、頭の中ではふと数時間前の出来事がフラッシュバックして。


「…仕方ねェだろ。見ちまった代償だよ」
「見たってなにを」
「なにって、……ん?」


1階の自販機から教室まで戻る道すがら。階段を登り終えると、使われていない空き教室に駆け込んでいく女子の後ろ姿が目に入った。
…どうにも既視感がある。加えて一瞬見えた上履きの色は2年生の学年カラーである青だ。

間違いない。朝のパンツの後輩だろアレ…!

「悪ィ、サボ。先戻っててくれ」
「今の子知り合いなのか?」
「あー、まあちょっとな」
「へえ…なら先に戻ってるけど」

次の授業が終わるまでには帰ってこいよ、なんてニヤニヤとしながらスマホのホーム画面に表示された現時刻を突き付けられる。
いやでも、授業が終わるまでって。まだ始まってもねぇのに?

「流石にそんな掛からねーけど…」
「あれ?お前って意外と早漏、いでっ!」
「なんの話だよバカ!」

すでに半分ほど飲み減らしたペットボトルで下世話なことを言うサボの背中を思い切りドツき、その足で空き教室まで小走りで向かう。
で、これまた思い切りドアを開け放てばーー。


「えっ」
「……は?」
「ひ、ひいぃっ!」

目が合うなり悲鳴じみた声をあげたそいつを他所に辺りを見渡すと、床には放っぽられた衣類が乱雑に散らばっている。そして、正面ではキャミソール姿で俺のカーディガンに顔を埋めた後輩が顔を真っ青にしたり赤くしたりとそれはもう忙しない。

………って、待て待て待て。
まじでどーいう状況だよ…!

「わ、悪ィ!すぐ出てく!」

とにかくここを出るのが第一だと退室しようとする。が、なにを思ったか腕をぐいと掴まれ制止をくらってしまう。いや、ちょっ…!

「違うんです!聞いてください!次体育なんで着替えようと思ったんですけど慌てたが故に先輩のカーディガンをこの埃だらけの床に落としてしまいまして…!」
「わかった!話はあとで聞く!だからとにかく今は離、」
「それで急いで拾いあげたんです!そ、そしたらなんかこういい匂いがしたので思わず顔埋めて堪能しちゃったっていうかなんていうか……完全に出来心だったんです…。」


ごめんなさい、なんて意気消沈して腰を折る姿を前に頭がパンクしそうになる。おまっ、その格好で前屈みになるのはやばいだろ…!胸!胸!


「どうでもいいからさっさと服を着ろって!」
「いやいやどう考えてもこの変態行為見られたことの方が大問題なんで、んぶっ!」

両手に握り締められていたカーディガンを取り上げバッと広げると、頭のてっぺんからぐるりと包み込んでやる。…いや、包み込むなんて紳士的なモンじゃなかったけど。雑にグルグル巻きにしただけだけど。

それでも、やっと目のやり場が出来たことにホッと安堵の息をつく。
…………ハア。


「さっきパンツ見た時は飄々としてたくせに今になってなにを焦ってるんですか…。」
「パンツなんか学校の階段でも道端でも見えるときは見えっからそうレアでもねーじゃん」
「えー!わたしからしたらキャミソール姿の方が断然マシっていうか羞恥しないですけどね〜」

妙に落ち着き払って言う後輩が腑に落ちなくて、カーディガン越しにむぎゅっと鼻を摘む。

「ふが!ちょっ、」
「ンなテロッテロの生地じゃなけりゃ俺もここまで気まずくなってねェよ……なあ、気付いてんのか?」


それ、すげェ透けてんぞ。
耳元に口を寄せて低く囁けば、微かに身体を跳ねさせて「そ、そんなはずないです!」なんて声を震わせるからもう一歩ぐらい追い詰めてやりたくなって。

「濃いピンク」

それだけを口にすると、正解答に動揺したのか背後の机にぶつかった拍子にスマホが床に転がり落ちる。

未だカーディガンをすっぽりと被り視界の自由が利かないであろう後輩の代わりに手を伸ばせば、ふと目に入った画面には短く【なまえ!急げ!】なんて通知が出ていてなんとも間接的に目の前の後輩の名前を知ることになった。


「おい、なまえ」
「えっ?!」
「それ、もっ回貸しといてやる」
「や、でも、」
「放課後取りにいくからそれまで教室で待機しとけよ」
「……は、はい」
「よし、じゃあ後でな!」


机の上に置かれていたブレザーを羽織り、そそくさと空き教室を出る。すると同時にスピーカーから次の授業開始を知らせるチャイムの音が鳴り、背後のドアの向こう側では再びなまえの悲壮感漂う声が響き渡ったのだった。

……なんかアレだな。どこまでも厄日だな、アイツ。





(それにしても意外とデカかった………って何考えてんだバカか俺!!)
(なに百面相してんだよエース)

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第2段です!
次でラストになります〜(´・ω・`)
ブラ>パンツ派なエースくん萌える。


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