セクシーorキュート


「いててて…。」

お風呂で一日の疲れを洗い流し、美味しい夜ご飯だってたらふく食べた。
そうなれば残すは眠るだけ!ということで自室へと続く廊下を歩いているわけだけれど、頭の上にドンと居座るたんこぶが痛くて痛くてたまらない。

言わずもがな、作者は愛しの隊長である。


『セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?』


数十分ほど前。空っぽの食器を前にそんなフレーズを口遊んでみれば、向かいに座っていた二番隊の盛り上げ担当ウィッチが「エース隊長はセクシー派だぞ!」なんてニヤニヤしながら言い出して。
結果、何故かわたしにだけ重ーいゲンコツが落とされた。

話を切り出したのはわたしだけど答えたウィッチにもお仕置きするべきだよ!なんて迫ってもみたけれど、うるせェと怒鳴られ加えてもう一発のげんこつ刑。目の前が涙でじわりと滲んだ瞬間だった。


「ううっ!ウィッチの卑怯者!」
「あー、じゃあお詫びにいいモン貸してやるから。ちょっと付いて来いよ」
「…いいもの?」
「そ!いいモノ!」


+ + +


――パタン


ようやく部屋に辿り着くと真っ先にベッドへと向かい、そのままボスンと寝転がる。

そして、手元の本にソッと視線を落とした。

「……海辺の、ピーチガール」

残念なことに、どこからどう見てもエロ本にしか見えない。
まず第一に年頃の女の子にアダルティーな雑誌を貸すってどうなの?バカなの?むしろこんなものを貸してくる地点で、わたしのことを女の子として認識してないってことだよね!失礼な奴だな、全く…!


「まあ参考にはさせてもらうけども! 」


そう意気込んで本を開いてみたものの、載っているのが見事にわたしと同い年くらいの女の子たちばかりで、捲れば捲るほど気まずい気分が充満する。
けれど、好きな人の理想に近づくためにはやっぱり細やかなリサーチが必要ってなわけで。

これより先のことは本人に直接聞くしかないと思うんだよね、うん…!


「よーし!」


思い立ったら即行動!ってことで、隣の部屋の壁をコンコンと叩いてみる。それを何回か繰り返していると突然激しい音が響き、ドアの向こうに現れた隊長がこちらに向かってズンズンと歩み寄ってくる。


「コンコンコンコンうるせェな!ノックするなら正式にドア越しでやってくれよ!」
「えー、だってそこまで歩くの面倒くさくて…。」
「真隣だろーが!」


プンスカと怒る隊長が非常に怖いため、素直にごめんなさいを告げる。
そして本題へと入るべくベッドの方に隊長をお招きすれば、不審がりながらも端の方に腰を掛け「本題ってなんだよ」と疑問を投げかけられたので手に持つそれをスッと差し出してみる。


「とりあえずこれを見てほしいんだけど…。」
「……は?おま、年頃の女がなんてモン読んでんだよ!」
「いやあ、これはウィッチから借りてて。そこで隊長にお尋ねしたいことができたのです!」
「……なんだ?」


ハァと深い溜息を吐き、心底呆れた眼差しでわたしと雑誌を交互に見比べている。
ていうか全然関係ないけど、夜中に部屋でふたりっきりってなんだか少しエロい気がする…!隊長に至っては半裸だし!(いつものことだけど)

そんなことを考えていたら心なしかニヤニヤしてしまっていたようで「さっさと本題に入れ!」なんてデコピンを撃ち込まれた。むしろデコピンの域を越えたデコピンだった。なにこれ痛い…!


「ちょ、これ腫れる!」
「腫れろ」
「……大人しく本題に戻ろっか」
「おう」
「それじゃあずばり!隊長はこの中でどの子が一番好き?」


どーん!と雑誌を開いて聞いてみると「どうせそんなことだろうと思った」なんて呆れ気味に目を細められてしまう。


「つーかそんなもん聞いてどうすんだよ」
「えっ!それはモチロン目標にするんだよ!隊長好みの女の子になるために!」
「……ふーん」


ぽつりと呟いた隊長に雑誌を手渡せば、暫くの間ぱらりぱらりとページを捲る音だけが部屋に響いて。
その様子を少し離れたところから眺めていると、ふと顔を上げた隊長と視線が交わった。

それを合図に、「あ、もしかして決まった?」なんて一緒になって雑誌を覗き込む。


「どの子どの子?」
「いや、どれもピンとこねェ」
「ええっ?!セクシー系好きなんでしょ?だったらなんで…!」
「あんなんウィッチが勝手に言い出したことだろ」
「そうだけど…、あ!実はキュート派だったの?」


まさかの情報ミスかと恐る恐る聞いてみれば、それも違ェけどなんて言ってパタンと雑誌を閉じた隊長。
セクシーもキュートも違うって……じゃあ一体なに?首を傾げて考えていると、隊長の手がぽんと優しく頭に乗せられる。……ええっと?


「お前はそのままでいいんだよ」
「えっ?それってお前はそのままでも超絶かわいいぞっていう愛の告白として受け取っていいの?」
「よくねェよ。ただなまえにはなまえのいいとこがあんだから無理して変わらなくてもいいんじゃねーの?ってこと」


そう言ってニカッと笑った隊長。
だけどまさかそんな嬉しいことを言ってもらえるとは思ってもみなかった…!
な、なんか今日の隊長ツンが少ない!むしろ優しさに溢れてるんだけど一体どうしたんだろう!なんてバタバタ暴れていると、ふと視界の端で隊長の手が振り下ろされたのが見えた。


「痛っ…!!!」
「埃が舞うだろバカ!」
「ううっ!」


や、やっぱりツンは健在だったか…!
そして痛む頭を抑えて隊長を見れば、なんということだろう。その右手にあったアダルト雑誌が一瞬にして炎に包まれ、灰となってパラパラと床に落ちていくではないか…………って、


「えええええっ?!それ借り物なんだけど!」
「気にすんな」
「気にするなって…!」
「自業自得だろ、あのアホ」


………う、うわあ。
ごめんね、ウィッチ…。

是非また新しいのを買うかなんかしてください。

PS.悪いのはわたしじゃなくて隊長だからね!


(そういえば結局隊長はどういう子が好きなの?)
(……バカで元気なやつ)

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このあと
「バカで元気か〜、…サッチ隊長みたいな?」
「バカか!なんでサッチなんだよ!」
みたいなやりとりをしてればいいと思う(^.^
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