燃える炎は君の証


オヤジの誇りをこの背に刻んだ日。
今と変わらず俺の後ろを付いてまわっていたなまえが何を思ったか「わたしも彫りたい!」だなんて駄々を捏ね始めて。かく言う俺も「女だからやめとけ」だなんだを言うつもりはねェし望み通り彫り師の元へと連れて行ってみた。

しかし、いざとなって判明したのがなまえの体質だ。パッチテストの段階でぶわっと腫れ上がったそれを見るに残念ながら続行は不可能との決断が下ったものの、諦めの悪ィあいつはどうにかしてくれと意固地になって船のナース達へ頭を下げていたのを覚えてる。


「で、その時ナース達にも断られたはずだと思ってたんだけどな」
「うっ…。」
「オヤジも珍しく反対してたろ」
「そ、それは…。」
「どこのどいつが彫った?」
「………」


トレーナーの裾を軽く捲りあげ、静かに問いかけてみるも返ってくるのは沈黙。沈黙。沈黙。
密かに表情を盗み見れば、眉間にグッと皺を寄せながら俺の手元に視線を落としていて、その両耳の淵はほんのりと赤く染まっている。

「……オイ、お前ほんと高低差激しくね?」

さっきまで脱がしてくださいと言わんばかりの勢いだっただろ。なんで急に照れんだよそーいうのやめろってマジで!


「て、ていうかさ!」
「ん?」
「彫ってるって暴露したことだし別に見て確かめる必要はないんじゃないかと思うんだけど…!」
「まあ、ごもっともだな」
「だったら、」
「けど脱がしてくれって言ったのは他でもねェお前じゃねーか。…だろ?」


うっすらと笑顔を貼り付けて言い訳にもならないような理由をぶつけてみると、色気がなんやらイケメンがなんやらとゴチャゴチャ並べながらふにゃりと俯いてしまうなまえ。

その隙にぐいっとトレーナーをめくってやろうとすれば、慌てて手首を抑えられて「そ、そっちじゃないの!」って。

そっちじゃなきゃどっちだよ。


「腹側じゃなくて背中ってことか?」
「違くて!上じゃなくて……下、的な…。」
「……し、下ァ?!」


今まで短ェの履いてても目に付かなかったくらいだ。俺の記憶が正しけりゃ足にはひとつもタトゥーなんて彫られていない。…つまりはそれ以外ってことだろ?いや、けど。それ以外って。


「流石にパンツまでは脱がせねェぞ!」
「へへっ!そんなことになったら幸せの極み!」


こっちが戸惑い始めた途端にいつもの変態じみた調子を取り戻しやがって…!
………こんにゃろう。

「わたしはいつでも大歓迎だよ!むふっ!」

にやにやとだらしない顔であーだのこーだの騒ぎだしたなまえを牽制する気持ち8割、もしかしてココじゃね?という勘2割でスエットパンツに人差し指を引っ掛けると、クイっと腰下まで下げる。

するとーー、

「わっ!」

慌てたなまえが咄嗟に右腰を手で隠そうとしたのを素早く阻む。……つーかこれ見間違い、じゃねぇよな?目に入ってきたそのデザインに多大なる疑問が浮かんでずいっと顔を寄せる。

ぎゃっ!恥ずかしい!やめて!なんて声が聞こえたけど知ったことか。近距離で目を細め、じいっとそれを睨みつける。


「……お前これ一生消えねぇんだぞ?」
「そ、そうだね?」
「わかってんならなんでオヤジの周りに火飛ばしてんだよ。勝手なアレンジ加えんなバカ」


なんで、だなんて。
わかりきったことを聞いている自覚は勿論ある。それでも何故かなまえの口から直接その答えを聞きたい気がして思わず口走った。その際、照れ隠し程度に皮肉をくっつけちまったのはご愛嬌だ、なんて思ったのだけれどーー、

「アレンジしてるのわたしだけじゃないのに!フォッサ隊長のとこの隊員たちだってオヤジのマークの周りに火飛ばしてたもん!」

まさかのまさかで、皮肉のつもりで言った「アレンジの件について」の方に重点置いてきやがった…!ちっっげェよ!本題はそこじゃなくて前半部分だっての!

むうっと頬を膨らますなまえを険しい剣幕で見下ろしていれば、すぐに気付いて「あ、アレンジのことでそんなに怒らなくても…!」なんて見当違いなことを言うからこっちも半ばヤケになってしまう。


「ああ、そうかよ!お前は単に15番隊の奴らと揃いのマーク入れたかっただけなのかよ!」
「ヤキモチ?」
「………は?」


間髪入れず返ってきたなまえの言葉のせいで随分と間抜けな声が出た。まるでバウンド前のボールをダイレクトに打ち返されたような突飛な感覚に何も反論出来ないでいると、ふにゃりと頬を綻ばせたなまえがまるで俺の心を読んだかのように「わたしのこれは隊長の火だし」なんて嬉しそうに笑うモンだからきつく結んでいた口元がゆるりと緩んで。

……そうだ。
俺が聞きたかったのはそれだ。
途端に晴れた苛立ちを思えば嫉妬ってのも強ち間違ってねぇんだろうけど、その心の内を素直に言えるわけもなく、襟足あたりの髪をくしゃっと乱す。


「……なまえ、」
「なに?」
「お前ってほんっっとバカな」
「なっ…!」
「俺なんかの為にカラダに一生モンの傷作ってんじゃねェよ。大ばかなまえ」
「……っ、!」


淡々と言葉を並べれば顰めっ面で勢いよく俺の顔を見上げてきたものの、目が合うなりぴたりと固まり、次いでぶわりと顔を真っ赤に染めあげる。


「た、隊長…。」
「(けど、それを喜んじまってる俺の方がよっぽど大ばか野郎だよなァ…。)」
「ちょっ、なにその愛おしいものに向けるような破壊力満点の笑顔!わたし?この場合の愛おしい対象ってわたしだよね?!」
「ギャンギャン騒ぐなって」


もしも「そうだ」なんて言ったらお前はどんな顔するんだろうな?なんて。心の中で問いかけたそれをグッと飲み込んで、なまえのデコをぴんっと軽く弾く。

「痛っ!」
「それ、黙っててやる」
「…はい?」
「親父にバレたら大目玉ってこと忘れるなよ?」


ニッと悪戯に笑みを浮かべてするりと腰元のタトゥーを撫ぜる。すると、今年1番じゃねェかってくらいに真っ赤になったなまえがドタバタといろんな箇所に体当たりしながらも騒がしくドアへと駆け寄り、出て行く間際に余裕なくこちらを振り向くと「隊長なんか大好きだ!」なんてデケェ声で叫んで走り去って行ってしまって。


「……おれも」

静まり返った部屋でぽつりと呟いたそれは誰の耳に届くでもなく空間へと融ける。

「…………」

自分で言ったのにも関わらずじわりと熱くなる頬をバチン!と両手で強く挟んでは、力なくベッドへと倒れ込んだ。


(俺の火、か…。)(そんなもん見せられたら怒るに怒れねェよ)(…てか嬉しいよな、普通に)

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照れて項垂れるエースくんを想像するだけで果てしなく幸せな気持ちになれる……(´・д・`)
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