コトバノシンギ


「おい、なまえ来てねェか?」

勢いよく開いた食堂のドア。
ドスの聞いた隊長の声。
身体の大きなクルーの後ろに身を隠しつつ、決してバレないようにと必死に気配を殺す。

ねえ、早く言おう?ここには来てないって言おう?の意を込めて肘でその大きな背中を小突けば、一拍置いて蚊の鳴くような弱々しい声が聞こえてきた。


「い、いや?来てねえッスけど」
「チッ、どこ行きやがった…。」
「えっと、アイツまた何かしたンすか?」
「あァ、まあちょっとな」


そーいうことだから悪ィけど見つけたら縛りあげて俺んトコに連れてきてくれ!なんて言って部屋から出て行く隊長の後ろ姿をガグブルと震えながら見送れば、ドアが閉まった途端その場にいた数人が揃いも揃って素早くこちらを振り向いた。


「ちょっ、今度は何しでかしたんだよなまえ!」
「わ、わかんない!身に覚えがないのにさっきから物凄い剣幕で探されてて!嬉しい反面怖くて逃げてたんだけど…。」
「ふざけんなよ!俺エース隊長に嘘吐いちまったじゃねーか!片棒担がせやがって…!」
「片棒どころか全棒担いでほしいくらいだよ!ほんと怖かっ、」
「なんだよ居んじゃねえか」
「………え?」


閉じたドアの向こう側から声が聞こえてきた次の瞬間だった。

バン!と荒々しくドアを開け放った隊長が乗り込んできたかと思えば、こちらに向かって一直線に歩いてきて盾となってくれていたクルーに向かって「出せ」と爽やかな笑顔を浮かべる。

瞬時に横にズレた彼を責めるつもりは毛頭ない。気持ちは痛いくらいにわかる。怖いよね。この顔してる隊長ってばかっこいいけどまじ怖い。

ということで、こんな時の選択肢はたったのひとつ!さあ隙をついてダッシュで逃げ、…れない!
咄嗟に首根っこを押さえつけられ、うまいこと動きを封じられてしまった。恐る恐る顔を上げれば据わった目でじろりと見下ろされて小さく肩が跳ねる。


「お前の考えてることなんてモロバレなんだよ」
「ああ、隊長のこと愛してるとかそーいうの?やっぱりバレちゃってるよね!わたし隠せないタチだからなー!」
「来い」
「ひいっ!や、やだ!怖い!なんか怖い!」
「うるせェな!とにかく付いて来い!」


だって目が!目が獲物を狩る猛獣のソレだもん!どう考えても良くないことが待ってる気しかしないよ…!なんて訴えかけたところで解放してくれないことは百も承知。潔く諦めて大人しく引き摺られていると、暫くして辿り着いた先はなんとまあ隊長様ご本人の自室だった。

……あ、あれ?てっきり怒られるものかと思いこんでたけど勘違いだった系?これはまさかのラッキーイベントが発生してる系?


「なにそれ幸せすぎる…!」
「なにが」
「え?だって隊長ってばわたしと愛を確かめ合うためにこうやって部屋まで招待してくれたわけでしょ?そりゃあ幸せだよ!高まる!」
「…まあ強ち間違っちゃいねェか」
「へ?」


間違ってないって………。
え?ちょっ、ええっ?!


「ほ、本気で言ってるの?!」
「あァ」
「っ、!」


思わず言葉を失った。
だ、だだだってどうしたら…!
どうしたらいいんですかコレ!
思考回路がめちゃくちゃに乱れて唖然としていると、ぐいっと肩を押されて毛布やらなんやらが散乱している隊長のベッドへと突き飛ばされて。いよいよをもって疑心が確信へと変わり始めた時だった。


「つっても確かめてェのは愛じゃなくてお前の言葉の真偽だけどな」
「…ことばのしんぎ?」


なにそれ呪文?と言わんばかりに首を傾げると、ベッドの横に仁王立ちした隊長から「どこだ?」と威圧感バリバリで問われてこめかみ辺りを嫌な汗が伝う。

いやでも、どこだ?って言われても何が?って話なわけで…。


「ええっと?」
「ふと思い出したんだけどよ。お前この前叫んでたろ」
「昨日隊長に海に向かって投げ捨てられそうになった時のこと?」
「ちげェ」
「あっ!じゃあ一昨日のアレ?海王類と戦ってた隊長の火拳に巻き込まれそうになった時の、」
「それもちげェ!ローに服捲り上げられてた時だよ!あん時お前叫んだろ?」


タトゥーがなんたらって、と目を細められて一気に血の気が引いた。ちょっと待って。そ、それ聞こえてたの?だとしたらヤバい。かなりヤバいぞ…。


「えっと、それはまあその場凌ぎのハッタリっていうかなんていうか…!」
「ウソだったら燃やすぞ」
「………」
「本当に彫ってねーんだな?」
「いや、その…」
「…入ってるのか」
「……ハイ」


泣く泣く小さな声を絞り出すと、それを聞くや否や背を向けた隊長がボスンとベッドの端に腰を下ろし、次いで聞こえてきたのは大きな大きなため息だった。


「あ、あの隊長…?」
「…見せてみろよ」
「えっ!いや!見せれないトコですごめんなさい!」
「いいから」
「ちょっとほんとに勘弁、」
「ウダウダ言ってると脱がすぞコラ」


ぐるりと振り向きベッドの上で胡座をかいた隊長に、たまらず「お願いします!ぜひ!ウェルカム!」なんて鼻息荒く言ったら最高にヒいた目で見られてしまったから切ない。

何もそこまでドン引かなくても…!


(隊長から言い出したくせに!)
(誰もやんねえなんて言ってねェだろ)
(……えっ)
(あとから文句言うなよ)
(えっ、ちょっ?!)

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長くなりそうだったので次に続きます(`・ω・´;)
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