「なあ!」
「……」
「おいって!お前なまえのとこまで案内してくれてるのか、ぶふっ!」
迷いなく突き進むシロクマにひたすら声をかけ続けていたが、突然足を止めて立ち止まりやがるモンだから見事にその背中へと衝突した。
「痛ぇ…。」
フォルム的にもっとふわふわもこもこしているのかと思ったけど、予想に反して硬い。硬すぎる。どんだけ強靭な背筋持ってんだよ…!鈍く痛む鼻の頭を抑え、恨めしくシロクマの顔を見上げる。
「てかお前、今微かに覇気纏っただろ!でもって背筋すげェし!」
「っ、キャプテンが!!」
「うおっ!」
頑なに前だけを見据えていたシロクマがグルンと勢いよく振り向き、丸い瞳を吊り上げたかと思えば大きく声を荒げた。突然のそれに、通りすがりのガラの悪い連中さえも目を丸くさせて猛ダッシュで俺らの周りから離れていく始末。更にその内の何人かは顔面蒼白になってその場で腰を抜かしていて、とんでもない迫力だと他人事みてぇに感心した。
「…キャプテンがなまえのこと連れて行ってくれててよかった」
先ほどの怒鳴るような口調ではなく、静かに告げられたその言葉に大人しく耳を傾ける。
「あの場にいたら泣いてたんじゃないの」
「え?」
「あの子お前にちゅーしようとしてたじゃん!ちゅー!」
最高にジトリとした目で見つめられ、思わず言い淀む。いや、だって、ちゅーって。
……うそだろ?
さっきの出来事を思い返して「そうだったのか?」「あれってそーいう流れだった?」なんてボケっとしていると肉球でむにっと両頬を挟まれる。
「…オレ、なまえと友達になったんだ」
「友達?」
「そう!だから悲しむ顔とか見たくないんだよ!」
「……そんなの、」
――俺だって見たくねえよ。
アイツにはいつでもアホみたいに笑っててほしい。そう思うものの、態々それを口にする気はない。
口を閉ざしてシロクマから目を逸らせば、何故か不満そうに両頬を圧迫された。いてっ。
「なまえは火拳のことが大好きだって言ってた」
「…へえ」
「でも火拳は違うって言うんなら、なまえはキャプテンを好きになればいいんだ!」
「………は?」
思いもよらぬ提案に、考えるより先に言葉が口をついて出た。
や、だってなんでそうなるんだよ。
意味がわからねェ。
そんな心の内が顔に出てたのかなんなのか。見透かしたように俺のことを一瞥したそいつがひょこっと口を尖らせながら「だってさぁ」と話し出す。
「なまえ、キャプテンのことカッコイイって言ってたし?」
「……。」
「鼻血とか出しちゃってたしね〜」
「……。」
あまりにも容易く想像出来ちまうその光景に、つい苛立ちが募る。
お前が好きなのは俺だったんじゃねえのか。他のヤツ相手に鼻血出してんなよ。そんな幼稚なことを思っては余計にイライラが増して、即刻なまえに問い質してぇくらいだ。きっと「あれ?隊長ってばヤキモチー?」なんてウザさ全開で絡まれるだろうけど。それはそれでめんどくせーけど!
でも、あいつが他の男のことを追いかけるのは……それ以上に嫌だ。すげぇやだ。
あまりにもみっともない嫉妬だと自覚はしてる。
それでも、自分の両目が自然と据わっていくのがわかった。
……だってムカつくじゃねーかそんなの。
「悪ィけどそれはぜってーダメだ」
「なんでだよ!別になまえのこと好きじゃないんでしょ?だったら、」
「好きじゃねえなんて一言も言ってねーだろ!」
互いの主張を出していく途中、何処か冷静に「なんで初対面のクマと恋バナ紛いのことしてんだろ」とか思ったけどダメだ。若干頭に血が上ってるらしく自分の感情がうまくコントロール出来ねえ。
そしてまあそれが災いしてか、どう考えても『余計なこと』を口走った気がする。が、気付いた時には既に遅い。
数秒間、クマと俺との間に沈黙が訪れた。
「「………」」
今までムスくれていたクマの表情がにいっと破顔するのと真逆に、ひたすら自分の顔が引き攣るのを感じる。……やめろ!ニタニタすんなクマ!
「なぁんだ!へえ?ふーぅん?」
口元に手を充て、楽しむような笑顔を浮かべるクマに冷汗が流れる。
「…お前イイ性格してんのな」
「あっ、しかも否定しないんだね」
「っ、!」
さながら二重トラップに嵌められた気分だ。
ここまできたらどうやっても話を流せる気がしなくて、じわりと顔に熱が集まる。
すると、そんな俺を見て嬉しそうに笑ったクマがルンルンとスキップなんかをし始めて。ああ、まじで勘弁してくれ…。
「くれぐれもなまえの前で下手なことは言うなよ?」
せめてもの抵抗で釘を刺すが、こっちの話を聞いているのかいないのか。不意にぐるんと視界が回り、クマに担がれたのだと悟る。
ちっとも話を聞かないクマの鼻歌を耳に入れながら、力なく両手で顔を覆ったのだった。
(こんの策士クマ…。)
(へへっ!俺頭脳派だから!)
(……。)
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とりあえず、隊長は遊び呆けてケーキ屋に居たんじゃないんだよ、ってことを書きたかったんですが…。もっともっとヒロインのこと心配して暴走するエースでもよかったかなあって迷いながら書いてました(´・ω・`;)