ドSのち曇り


「そっかあ…。幻のケーキを買いに行く途中で逸れちゃったのかあ…。幻のケーキ…。」


じゅるりと涎を垂らしつつ、うまいこと話を要約してくれたベポ。
その隣で奇跡的に持ち合わせていたハンカチを鼻元に当てながら大きく頷くわたしは傍から見たら実にマヌケな姿に違いない。

だってこれハンカチ真っ赤だよ。どんだけ鼻血噴き出してんだって話だよ…。
しかもその原因が船長さんのお色気って。我ながら居た堪れない。


「…それにしたってまさかお前が白ひげのクルーだとはな」
「むふふっ!白ひげ海賊団にこんな可愛いクルーが居て驚きました?」


ニッと笑みを浮かべ、これまたお隣を歩く船長さんの顔を見上げる。


「あァ、こんなチンチクリンが居るとは正直驚いた」
「ち、チンチクリン…?!心外です!これでも一応二番隊で日々頑張ってるんですよ!」


ムキになって声を張れば、ベポがのんびりした声で「二番隊?」と繰り返す。
そうそう、二番隊!火拳の王子様率いる二番隊だよ……って、火拳の王子様とかめっちゃ響きよくない?やばくない?


「その王子様がなまえの隊の隊長なの?」
「うん!隊長ってば超かっこいいんだよ!しかも強い!でもってかっこいい!」
「そっか〜!なまえはその隊長さんのことが大好きなんだね!」
「わかっちゃう?やっぱり伝わっちゃう?」


だらしなく頬を緩めてベポとワイワイ盛り上がる。が、次に発された船長さんの何気ない一言によってだだ登りだったテンションは一気に地の底へと叩き落されることになる。


「それにしては余裕じゃねェか」
「…え?」
「イイ女と消えちまったんだろ?今頃おっ始めてるかもしれねェぞ」
「っ、!」


そ、そんなまさか!隊長に限って…純粋そうだったナナちゃんに限って…。
そんなことあるはずがない、…よね?

……うん、ナイナイ!
サッチ隊長だったらアウトだったかもしれないけど、隊長はそんな軽はずみなことーー、

「……。」
「オイ何急に黙り込ん、…。」

……ダメだ。やっぱり不安だ…。
いくら隊長がチャラくないとは言っても、相手があのお人形さんレベルに可愛いナナちゃんだよ?よもやリミッターが外れるかもしれないじゃん!オオカミになっちゃうかもしれないじゃん…!

ど、どどどうしよう!


「ちょっ、何言ってんすかキャプテン!なまえのやつ泣きそう!泣いちゃいそう!」
「……」
「あれ?キャプテン聞いてます?!……あーっと、なまえ!とにかく気にすんなよ!大丈夫だ!相手は足に怪我してんだろ?だったらヤりたくてもヤれねェって!なっ?」


そんな少しばかりデリカシーに欠けるフォローを受けながら眉間に皺を寄せていると、何やら右隣からゴクリと生唾を飲む音が聞こえてきて。


「どうしましたか生唾なんて飲んで…。グラマラスなお姉さんでも居まし、…た?」


なんだなんだと船長さんに視線をやったはいいものの。
その船長さんの視線の先に居たのはグラマラスなお姉さんでも可愛らしい美少女でもなく……アレ?わたし?


「えっ、あの…?」
「…クるな」
「く、くるな?」
「お前の泣きそうな顔、クる」


そう言ってニヤリと口角を引き上げた船長さん。……いや、それにしても。

今、泣きそうな顔がなんちゃらって言った?

なにこのイケメン船長、ドSなの?


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