見事なフラグ回収


何処ぞの秋島でのみ食べることが出来るといわれている幻のシフォンケーキ。
これがまた言葉では言い表せないほどの絶品らしくって、その噂を耳にしてからというもの1度でいいから食べてみたいとずーっと夢見ていた。

そしたらなんと!なんと…!先ほど着いたばかりの島に件の酒場があるというではないですか!


「(ゆ、夢にまで見たシフォンケーキにやっとご対面できる…!)」


そう目を輝かせたものの、この島は大層治安が悪いことで有名らしく陽が落ちてからの外出許可が一向に下りず困り果てているのである。


「お願い!行かせてください!」
「駄目だよい」
「なんで!」
「何度言ったらわかるんだよい。ここはなまえみてェなひよっこを一人でほっつき歩かせられるほど安全な島じゃねーんだ」
「わたしひよっこじゃないよ!それに一人が駄目ならマルコ隊長が一緒に来てくれればいいじゃん!」


もう21時なのに!お店は開店してるのに…!それなのに船から出られないって凄くもどかしい!
そんなこんなで引き続き「お願いだってばー!」とマルコ隊長の腕にまとわりついていると、足早に隊長がやってきては来い来いとこちらに向かって大きな手招きをした。


「隊長?どーしたの?」
「お前例の酒場に行きてェんだろ?」
「えっ!うん!そうそう!」
「俺も前からそこのシフォンケーキ食ってみたいと思ってたんだ!なあマルコ、俺が同伴ならいいだろ?」
「…まあ、戦闘力の面で見りゃお前がついてれば安心だろうな」
「うっし!そんじゃあなまえ連れてくぞ?」


そわそわと身体を揺らした隊長が声を張り上げると、その勢いに負けたのか溜息交じりに首を縦に振るマルコ隊長…って、えっ!ええっ!ほんと?!

「や、やったー!」

許可してくれてありがとうぅぅ!なんて叫びながらマルコ隊長に抱きつけば、呆れながらも頭をガシガシと撫で回されてつい頬が緩む。


「その代わり何があっても絶対になまえを一人にするんじゃねーぞ、エース」
「おう!そんなの当たり前だろ!」


しっかり見とく、と笑顔で親指を立てた隊長にときめいたのは言うまでもない。さりげなく「わたしも隊長のことじっと見つめとくね!」なんて言ってみたらスパンと頭を叩かれたけれども。ちえっ。


+ + +


「うわぁ、治安が悪いとは聞いてたけどすごい…。」
「くれぐれも俺の傍から離れるなよ?」
「きゃっ!幸せ!言われなくても一生隊長から離れないよ!」


両手で頬を覆い隠して言えば、そういう意味じゃねェ!なんて強く睨まれたけれど気にしない。むしろその鋭い視線にさえキュンなんだから…!
ウインク混じりにそう言ってみた結果、バシっとお尻を蹴飛ばされ。それと同時になにやら鈍い音が耳へと届いた。

咄嗟に振り向くと、おそらく隊長とぶつかったであろう女の子が尻餅をつきながら目をまん丸くしており、状況を理解するや急いでその子の元へと駆け寄った。


「ちょっ、大丈夫ですか?!」
「あっ、はい…。」
「よかったら掴まってください!」


きっと歳はわたしと同じくらいだと思う。
目はくりっとしていて、髪はサラサラ。スタイルなんて申し分ないくらいに良くて、お世辞抜きにとっても可愛らしい子だ。

思わずぽけーっと見とれながら、繋がれた手に力をこめて身体を引っ張りあげる。けれど途中で「痛っ!」と小さな悲鳴を上げ、再び地面へと座り込んでしまった。…うん、これは完璧にアウトかもしれない。


「足首やっちゃったみたいだね…。」
「っ、俺の不注意で本当にすまねェ! 」


そう言って深く頭を下げた隊長を前にニコリと微笑むと、これまた可愛らしい声で「気にしないで」と言う。
ぬおお、この子本当に可愛い…!まるでお人形さんみたい!なんて打ち震えていれば、ふと隊長が女の子に背を向けてしゃがみこんで。


「家まで送ってく!」
「そんな!これくらい大丈夫ですから…!」
「どう見ても大丈夫じゃねーだろ」
「そうですよ!悪化しちゃったら大変だしお家までご一緒させてください!」
「えっと、でも…。」
「いいからいいから!ねっ?」
「…すみません。じゃあお言葉に甘えて…。」


ペコリと頭を下げ、今度こそ素直におんぶされた女の子。聞いたところによると名前はナナちゃんっていうらしく、そこを切り口にガンガン話しかけてみたら努力の甲斐あってか徐々に会話が弾みはじめる。


「ええっ!そんな不思議な島があるんですか?」
「おう!すげえデカい雨粒が降ってきたときは驚いたよな!」
「隊長溺れかけてたもんね〜」
「エースさんって泳ぎが苦手なの?」
「…まあ、うん」
「ふふっ。エースさんでも苦手なものがあるんですね」


あれから暫らくナナちゃんの案内に従って夜道を歩いているわけだけど、そこはかとなく感じるこの謎の疎外感はなんだろう。いや、卑屈とかネガティブとかじゃなくてホントに…!ふたりが楽しそうに盛り上がる中、わたしの存在薄すぎでしょ!

挙げ句の果てに、早く送り届けようという気持ちが先行してか隊長の歩くスピードがとてつもなく速い。よって、ふたりとの間に段々と距離が出来始めてしまった。
こ、これはマズイ…!


「ちょっ!隊長速い…!」


タンマ!まじでタンマ!
小走りで追いかけていた足を止むなく緩め、乱れた息を必死に整える。するとまあ案の定、次に顔を上げた時には隊長とナナちゃんの姿はなくて。

「(や、やばい…。)」

念のためもう一度辺りを見渡してみるも、ふたりの姿はやはり見えず柄の悪いお兄さんだらけ。同業者だと思うけど怖いものは怖い。

加えて、どこもかしこもギラギラギラギラ。厭らしいお店と酒場のオンパレードである。

さすがに心細くなり始めて船に戻ろうかとも思ったけれど、隊長の横を着いてきていただけのわたしが船への帰り方を知るわけがない。

こ、これってかなり絶対絶命だよね…?


どうしよう、泣ける。



(ねえ、どうしたの?泣いてるの?)
(え?……えっ、えええっ!?)
(ビクッ!)

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続きます(´・ω・`)
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