空中散歩へ連れてって


日差しは柔らかく、風の穏やかな昼下がり。
そうだ、こんな日は空中散歩に限る…!
そう思い立ってマルコ隊長を捜索していたところ、運良く前方にて目標人物を確認したので遠慮なくその広い背中へと飛びつかせてもらおうと思う。


「てい!」
「?、なん、」
「え!わっ、ぶふ!」
「……お前は毎回毎回何がしてェんだよい」


背中に飛びついてやろう作戦は見事に失敗。マルコ隊長がくるりとこちらを振り向いたものだから、流れで腕の中へと飛び込んでしまったのだ。

そして急なそれにも関わらず、ビクとも身じろがなかった強靭な体幹のおかげでその厚い胸板に顔面を強打することになったのだけれども。


「は、鼻が潰れた!」
「元からそこまで高い方じゃねェだろ。気にすんな」
「ちょっと!それは思ってても言っちゃだめなヤツじゃん!」


握りこぶしを作って猛抗議すれば、片耳を塞いだマルコ隊長が煩わしそうに眉を顰める。まあうん、こんな近距離でのシャウトですものね!そりゃあ煩いに決まってる……って、


「それにしても近すぎでしょ…!」
「お前が勝手に飛びついてきたんだろーが」
「だ、だからって!やだもう〜、マルコ隊長ったら!うへへ!」
「……で?俺になんか用かよい」


おおっと華麗なスルー!
だけどまあいいとしよう。早いところ交渉して空中散歩に出ないと急に天候が悪化したりしたらこのナイスアイディアが台無しだからね…!


「よし!空中散歩に出ようマルコ隊長!」
「却下」
「ええええ!なんで!なんで!」


あまりの即決具合に、ぐしゃりとマルコ隊長のシャツを握りしめてしまう。
すると、チロリとこちらに視線を寄越したマルコ隊長が「ん、」と言ってわたしの背後を軽く顎で指したではないか。……ん?

「って、隊長!」

振り返った先に居た人物に、思わず声を張り上げる。
きっと食堂にでも寄ってきたのだろう。片手には大きなハムのかたまりが所持されていて、モグモグと咀嚼しながら「なにしてんだ?」なんてこちらに歩み寄ってくるその姿が破滅的に可愛いんだけどどうしよう…!


「なあ、なまえ」
「ん?なに?」


緩む頬を必死に隠しつつマルコ隊長の呼びかけに応えると、あからさまに挑発的な笑みでこちらを見据えられて思わずハテナマークが浮上した。
えっ、その勝者の笑みは何…?


「さっきの話だけどよ、自分とこの隊長に許可取ってから来いよい」
「え…。」
「それで許可が下りたらまあ考えてやらないこともねェ」


そう言って、何食わぬ顔でわたしから背後の隊長へと視線を滑らせたマルコ隊長。
…く、くそう!策士だ!
策士すぎるよこの人!

隊長に相談したところで「やることねェんなら他の隊でも手伝えよ」とかなんとか言ってばっさり却下されるのが目に見えてるのに…!


「ううっ、意地悪め!ドS!」
「おい、さっきからなんの話だよ?」
「……頼んでも絶対ダメって言う気がする」
「奇遇だな。俺もそう思うよい」


飄々としながらそんなことを言うマルコ隊長をキッと睨み付けるも、不意に頭を鷲掴みにされてムリヤリ顔の向きを変えられてしまった。
視界の端にみえるマルコ隊長が壁に寄りかかって腕組みをしていることから、この手が隊長のものであるということは実に明白で。

ちょっ、痛い!首の骨が軋んだ音したよ、今…!


「いだだだ!待って隊長!痛い!痛いって!」
「マルコと話してばっかで早く言わねェからだろ!」
「えっ!なにそれ!もしかしてヤキモ、」
「火け、」
「ぎゃああ!わ、わかった!言う!言うからその拳を納めて…!」


あまりの恐怖に身を捩って叫び声を上げれば、不貞腐れたような顔をした隊長がようやく戦闘態勢を解除してくれて。炎を纏いかけていた拳がゆっくりと消火される。ひいぃぃ!怖かった…!


「…で、なんだよ?」
「えっと、今日いい天気だから空中散歩とかしたいなあって思って…。」
「それで?」
「それでマルコ隊長に背中に乗せてほしいって頼んでたんだけど隊長の許可が下りないとダメって言わ、」
「俺も行く!」
「だよね。やっぱりダメだよね………って、え?」
「確かに今日天気いいもんな!俺も空中散歩してェ!」
「っ!、だ、だよね!いいよね、空中散歩!」
「おう!そうと決まれば早く行こうぜ、なまえ!マルコ!」


にぱーっと輝かしい笑顔を浮かべた隊長にぐいっと腕を引かれたかと思えば、各言うマルコ隊長もその左腕を力強く鷲掴まれていて。

ニヤリ。先ほどとは打って変わり、今度はわたしが勝ち誇った笑みをマルコ隊長へと向ける番だった。


(さあ、早く不死鳥姿になって!マルコ隊長!)
(……エースの童心を侮ってたよい)
(散歩の供にこれ持っていこうぜ!)
(あ、シュークリーム!いいね、持ってこう!)
(………。)

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次回、空中散歩編書けたらなあと思います(*^▽^*)
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