ハッピーホワイトデー!


ニマニマと緩む頬。
腕の中の沢山のお菓子。
そう、今日はホワイトデーなのだ。

朝から代わる代わるクルー達が現れてはクッキーやケーキといったお菓子をプレゼントしてくれる。
ああ、なんて素敵な1日なんだろう!
そんなふうにルンルンとスキップ混じりで歩いていると、前からナースのセシルさんがやってくるではないか。


「こんにちはセシルさーん!」
「こんにちはなまえ。なんだか今日は一段と幸せそうね?」
「うん!お菓子貰えてすっごく幸せ!」


笑顔を浮かべて言えば「なまえったらかわいいんだから!」なんて優しく頭を撫で回されて。
そこでふとセシルさんの手にある綺麗なラッピングの施されたお菓子に気が付いた。


「わっ!セシルさんも誰かにもらったんだね!」
「あら…。えっと、なまえはまだ渡されてないのかしら…?」
「え?」
「エース隊長からなのよ、コレ」


とても言いづらそうに教えてくれたセシルさん。
いやはや、まさかのまさかでこれを渡した人物は隊長だったらしい。

……でも、あれ?朝から何度も会っているはずなのに、どうしてわたしにはくれないんだろう?
ないとは信じたいけど「お前の分なんてねェよ!」ってパターンだったらどうしよう…。


「そんなの辛すぎる…。」
「も、もう!落ち込まないの!この際自分から催促しちゃえばいいのよ!強気でいきなさい!」
「ううっ」
「ほら!がんばって!」
「……うん、そうだよね。ありがとうセシルさん。わたし行ってくるよ…!」


ネイルの施された細くて綺麗な手をぎゅっと握りしめれば「そうでなくっちゃ!」と柔らかく背中を押してくれたので、隊長がいるであろう場所を突き止めるべく慌ただしく船内を走り回る。

すると、前方に見えてきたあの後ろ姿は…!


「おーいサッチ隊長!わたしの隊長見なかった?」
「なまえのかは知らねェけどエースなら食堂でナース達に囲まれてたぞ」
「おおっ!有力情報の提供ありがとう!」


敬礼ポーズでお礼を言い、急いで食堂に向かおうとすると突然腕を引かれてグルっとサッチ隊長の方へと向き直された。なっ、なにごと…?!


「ほら、今日ホワイトデーだろ?だからそれバレンタインの礼な」


そう言って手渡されたのは、ラッピング袋に入った沢山のマドレーヌ達。


「うわあ…!美味しそう!それにすごい可愛い!」
「でた!褒め上手!」
「だってほんとのことだもん!」


大事に食べるね!ありがとう!と大きな声でお礼を言えば、笑顔でヒラヒラと手を振りながら甲板の方へと歩いていったサッチ隊長。
よーし、わたしも隊長探しのために食堂を目指すぞー!おーっ!


+ + +


「あっ、いた!」


どうやらサッチ隊長の情報は確かだったようで、食堂のドアを開けば四方をナースさん達に囲まれたハーレム状態の隊長がいた。その手元を見れば、さっきセシルさんが持っていたのと同じモノがある。
間違いない!アレだ…!


「隊長ー!」
「おっ、どうした?」
「ん!」
「……は?」


ずいっと両手を差し出したわたしを不審な目で見つめる隊長と、この光景を温かい目で見守ってくれているナースさん達。
しかし、どうやら本当に行動の意図がわからないらしい隊長はグッと眉間に皺を寄せるとコテンと首を傾げてしまった。

いやいやいや!手に持ってるそれを渡してくれればそれだけでいいのに…!

自分から言うのは卑しくて気がひけるものの、忘れられたままはもっと嫌なので控えめに呟いてみることにする。


「……お、お菓子!」
「お菓子?……あァ」


わたしの言いたいことがわかったのか手元のお菓子に視線を落とした隊長だったけれど、次の瞬間発された一言に笑顔がカチンと固まってしまった。


「これなまえのはねェよ」
「えっ?……それ本気で?」
「本気で」

………いやいやいや。さすがにひどくない?いつもツンな態度で接してくる隊長だけれど、この仕打ちはあんまりじゃないですかね…!

周りのナースさんや調理場にいるコックさんまでもが、目を点にして「それはヤバイだろ」という表情を全面に押し出している。

そんな気まずい雰囲気が充満してきたところで、耐えきれず走って食堂を飛び出した。
飛び出してくる直前になにやら隊長が大声で呼びかけてきたけど知らん!

もう隊長なんて知らないんだから…!


+ + +

――バン!


「隊長のハゲー!!」


ナースさんにはお返しあげてるのになんでわたしの分は用意してくれないの!いくら隊長を愛しているわたしでもさすがに挫けそうだよ今回は…!

度の過ぎた意地悪なのか。それとも単に「お前のために金を使うなんて馬鹿らしい」とか思われてしまったのか。
どちらにせよ、隊長の中でわたしはかなり下の方に位置づけられていることが判明した。

悲しさや虚しさから甲板に出ていろいろと叫び散らしていると、突然後ろからがしりと首根っこを鷲掴みにされて喉元まで出ていた言葉がするりと宙に消えていく。うげっ、苦しい…!


「俺のどこがハゲてんだよ」
「……………てっぺん」


な、なんてことだ。
今会いたくない人物ランキングぶっちぎりNo.1の隊長が何故ここに。
逃げようにも首根っこを力強く掴まれているので、それさえできないこの状況は究極にピンチである。


「なァ」
「なんですか」
「怒ってる?」
「…どうせわたしの分のお菓子はないもんね」
「ねェけど、」
「隊長のバカ」


背後にいる隊長からはこちらの顔が見えてない。
それを良いことにムスっと頬を膨らませると「馬鹿はお前だろ」と重めのゲンコツが落ちてきた。
ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
なんでわたしが殴られるのか全くもってわからないんだけど…!


「っ、痛いよ隊長!」
「うるせェ」
「なっ…!」
「確かに菓子はねーけどだからって何も用意してないとは言ってねェだろ!」
「………えっ?」


なにそれ?どういう意味?
ふわりと浮かんできた多量の疑問符をそのままに硬直していると、不意に感じた首への違和感。

「た、隊長?なにしたの?」

慌てて振り向き隊長を見上げれば、ボッと指先を炎に変えて鏡代わりにと目の前へ差し出してくれた。

するとそこに映ったわたしの首元で何かがキラリと光輝くのが見えて。


「……なんつーか、なまえにはナース達と同じモンやるのもなんか違う気がしたんだよ」


照れくさそうに笑う隊長と、炎に映る首元のネックレス。
そのふたつを交互に見つめていると、ふと隊長の顔が不安げな表情へと移り変わっていくのがわかる。


「やっぱお前も菓子の方がよかったか?」
「っ、ううん!このネックレスすごく嬉しい!本当に本当にありがとう…。」


嬉しすぎて薄く涙の滲む中、優しくネックレスに触れながら隊長を見れば視線が合った瞬間にふいっと顔を背けられてしまった。

「(わわっ、出たよツンデレ…!)」

なんてギャップにニマニマしつつ愛しの隊長を見つめていたのだけれど、突然こちらを振り向いてギラリと睨みを利かせられたからどうしよう。
なっ、なんで急に怒ってるの…?!


「オイ」
「ひぃっ!なんでしょうか…!」
「今の今まで忘れてたけどお前さっきまでの暴言の数々を俺に謝れよ!」
「暴言…。あっ!ハゲって言ったこと?」
「バカとも言ったろ」


タラリ。冷汗が流れる。
だってあれは隊長が…、なんて言い訳を試みたところで「あァ?」ともの凄く恐ろしいメンチを切られてしまったので、咄嗟に地面に這いつくばって大きな声で謝罪の言葉を叫ばせていただきましたとも…!ごめんなさいぃぃ!



(ホワイトデーに土下座させられてるわたしって一体…。)
(お前らしいっちゃお前らしいな)
(そんなわたしらしさいらない…!)

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他の人とヒロインとで違う物をあげる隊長が書きたかったんです、勘違いしていじけるヒロインが書きたかったんです><;;
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