その名は"エース"くん!


「むふふ、エース君!」
「………」
「今日もいい天気だね!」
「……なァ、なまえ」


んー?と返事を交えながら機嫌良く後ろを振り向けば、そこにはいつでも格好良さMAX!で有名な愛しの隊長が立っていた。相変わらず今日も素敵…!


「おはよう隊長!」
「おう、…じゃなくて!お前誰に向かって話かけてたんだよ?」
「え?」
「天気がなんとかって話してたろ」


そこら辺に向かって、とわたしの前方(誰もいない)を指さしながら眉を顰める隊長。ああ、そのことならーー、


「この子に向かって話かけてたんだよ」
「………サボテン?」
「そうそう!この前上陸した時にお花屋さんがくれたの!」


にこっと笑顔を浮かべながら言ってみたら「ふーん」と大して興味のなさげな相槌をうたれてしまった。が、しかし。その直後隊長の眉間にぐぐっと大きな皺が寄せられて。
えっ、なんか怒ってる…?


「た、隊長?」
「サボテンを育てること自体は別にかまわねェ」
「…うん?」
「でもな、」
「でも?」
「なんでよりによって俺と同じ名前なんだよ、そのサボテン!」
「ひぃっ…!」


ギッと睨みを利かせてくる隊長が物凄く恐ろしくって、反射的に顔を逸らしてしまった。
けれど、それを許さないとでも言うかのように両手で頬を挟まれて、強制的に隊長と顔を向き合わせる形となる。気分はさながら蛇に睨まれた蛙だ。うおぉぉ、恐ろしい!


「そ、そんなに怒らなくたって…。」
「怒ってねェからさっさと改名しろ!」
「それは無、」
「今すぐだ」


この有無を言わせない気迫…!
サボテンと同じ名前なのがそんなに嫌なのかな?顎に手を添えながら渋々と考え込んでいると、不意に隊長が件のサボテンを鉢植えごと持ち上げて。


「名前まで書き込んでんのかよ…。」
「うん!だからこの子はもう"エース君"以外の何者でもないんだよ!」


へへっと力なく笑いながら主張すれば「ふざけんな!」と一際素晴らしいゲンコツをいただいてしまった。いっ、痛い…!


「人の名前を勝手に使うなっての!」
「えー?だってサボテンってね、いっぱい話かけてあげると可愛い花を咲かせてくれるんだよ!」
「その話なら俺も聞いたことあっけど…。」
「でしょ?それでね、話かけるなら名前をつけてあげた方がいいかなって思ったの!」
「………で?」
「“エース君”にすればいろいろプラス面があるなーって!」


だってさ「おはようエース君!」とか「おやすみエース君!」とか「エース君だいすき!」みたいな台詞をTPO問わずいつでも口にできるわけだよ?
サボテンへの愛情も倍増しになるし、話かける度に隊長の姿が脳裏に浮かぶしで、これぞ正に一石二鳥…!

拳を握って意気揚々と説明したら「まじでなまえ気持ち悪ィ!」だなんて盛大にドン引きされてしまった。ええっ、なんで…!


「気持ち悪くないよ!」
「どう考えても悪趣味だろーが!」
「ううっ!ひどい!エース君、わたしを慰めて…?」


こてん、と首を傾げながらサボテンのエース君を見つめる。
ああ、エース君に棘がなかったらこのまま頬擦りしたい…。まだわたしの元に来て間もないけれど、既に愛着が湧きまくりで仕方ないのである。

そんなこんなでうっとりしながら目の前の小さな彼に話かけ続けていると、隣で見ていた隊長が「ハァ」と深い深いため息を吐いたのが聞こえてきた。


「…随分とそのサボテンが気に入ってんだな」
「うん!だってわたしエース君のことだーいすきだもん!」
「っ、ゲホッ!ゴホッ!」
「だ、大丈夫隊長?!」


(こりゃあ下手に他の奴の名前付けられるよりはいいのか…?)
(えっ?今なんか言った?)
(っ、なんでもねェよアホなまえ)
(ちょっ、アホって…!)
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ほのぼのした2人を書きたかったんです(´;ω;`)
ヒロインがサボテンに宛てて発する一言一言にいちいち苦悶している隊長がいたら素敵だなと思って…!
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